写真・図版
朝日歌壇選者の(左から)永田和宏さん、馬場あき子さん、佐佐木幸綱さん、高野公彦さん=東京都中央区、小林一茂撮影

 11月3日付朝日歌壇の入選歌40首をお届けします。選者は馬場あき子さん、佐佐木幸綱さん、高野公彦さん、永田和宏さんです。☆は共選作です。

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馬場あき子選

 映画館とバス停と書肆(しょし)この町を出でし若きらとともに消えたり(観音寺市)篠原 俊則

 駅ピアノ姉と奏でる日曜日ペアのブラウスメンデルスゾーン(富山市)松田 わこ

☆受賞より核廃絶を待ち望む被爆者の顔深き皺(しわ)よる(つくば市)山瀬佳代子

☆兵隊に「行った」と言わず「徴(と)られた」と腰曲げ戦後の母らは言った(大和郡山市)四方  護

 憎しみのかたまりの如き不発弾戦後七十九年の今にして出る(山口県)末広 正己

 山中でホンドテンと目が合って一瞬心がかよった気がする(東京都)増田 麻美

 地下足袋の爪をはめれば英気湧き八十路(やそじ)の翁野良へ出で立つ(盛岡市)佐藤 忠行

 やわらかき橡餅(とちもち)はめば庄内の秋の深山の土の香のたつ(仙台市)沼沢  修

 妹がお絵かきしてるプリントは捜索中の兄の宿題(京都府)片山 正寛

 山も野もなべて末枯(すえがれ)ひっそりと甲斐も信濃も静まりにけり(東京都)松木 長勝

 【評】第一首、映画館や本屋の閉店が多く、乗降者の乏しいバス停が消え若い人が都市へと出て行ってしまう。このさびれ現象はどう堰(せ)き止められるのだろう。第二首は元気な姉妹の楽しげな華やぎが伝わる。第三首は消えぬ被爆者の苦悩。

佐佐木幸綱選

☆マンションの住人なれば町角…

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