「豊かさとは何か」をテーマにした講演で=本人提供

 《1989年、「豊かさとは何か」を出版した。バブルまっただ中の日本では長時間労働が常態化し、生活の基盤である社会保障・社会資本は乏しかった。「豊かな生活をつくるはずの経済が人の幸せを破壊している」と論じてベストセラーとなった》

 86~87年の西ドイツ滞在中に日本を客観的にみる機会を得ました。同じ資本主義国のドイツでは労働者階級が広い家に住み、法定の有給休暇が長く、教育は競争主義ではない。それに比べると日本にはゆとりがなく、「なんて貧しい国なのか。人間らしい生活が経済の犠牲になっている」とショックを受けたのです。この貧しさの理由を明らかにしようと書いたのが「豊かさとは何か」でした。

 経済学者・暉峻淑子(てるおか・いつこ)さんが半生を振り返る連載「学問は生活からしか生まれない」。全4回の最終回です(2024年10月に「語る 人生の贈りもの」として掲載した記事を再構成して配信しました)。

 堅い本は読まれないと思っていたので、売れた時にはびっくりしました。高校や大学の先生たちが授業のテキストとして使い、口コミで読者が増えていったのです。会社員、主婦、学校の先生、学生などたくさんの人から手紙が届きました。「自分の感じていたおかしさが、この本で言語化されている」という内容が多かったのが印象に残っています。

 《印税の使い道を考えた》

 そのお金で、当時内戦が起き…

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