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早稲田実の中村心大=伊藤進之介撮影
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 「良いゲームだったね」。早稲田実(東京)のエース左腕、中村心大(こうだい)はこの半年間、そんな言葉をかけられ続けてきた。

 第1回選抜高校野球大会から出場する伝統校は、昨夏の全国選手権で大会史に刻まれる名勝負を見せた。

  • 「内野5人シフト」を完成させた早稲田実 強さの理由は未完成にあり

 大社(島根)との3回戦。早稲田実は「内野5人シフト」で九回のサヨナラのピンチを防ぐなど激闘を演じたが、延長十一回タイブレークで敗れた。中村は投球中にマメがつぶれ、7回1失点で降板。冒頭の言葉に対していま、こう思う。

 「結局、負けている。満足したっていう気持ちはないし、あの試合が原動力になっている」

 甲子園は粗削りだった中村の能力を開花させた。最速は145キロ。右手を高く上げるフォームから投じる直球は力強いが、ときに制球を乱す課題もある。それが甲子園では、「マウンドに立ったら音が聞こえない」ほど集中できた。直球がコーナーにぴたっと決まり、2回戦では鶴岡東(山形)を完封した。

 手応えをつかんで挑んだ秋。新たに磨いたチェンジアップで緩急を操り、三振を量産した。秋の都大会は奪三振率10.13。今大会に出場する投手の中でトップの数字だ。

 しかし、二松学舎大付との決勝では制球難が再び顔を出した。7回7四死球4失点で降板。チームも延長タイブレークで敗れた。

 30年以上指揮を執る和泉実監督はそんな左腕を、おおらかに見守る。「生徒は公式戦でこそ、驚くような成長を見せる。甲子園では『良い方の中村』が見られるかなあ」

 中村は「甲子園の借りは甲子園でしか返せない。勝ちたい」。2度目となる甲子園。もう、「グッドルーザー」になる気はない。

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