ネパール東部のイラム地方でミツマタの樹皮を洗う作業員たち。日本から何千マイルも離れた場所で育ったミツマタの樹皮が、日本円の紙幣の原料となる=ニューヨーク・タイムズ

On Himalayan Hillsides Grows Japan’s Cold, Hard Cash

 世界最高峰の山々と、インドのダージリン地方の紅茶農園地帯に挟まれた、ネパール東部。目を見張るような風景だ。珍しいランが育ち、レッサーパンダが緑豊かな高原で遊んでいる。

 しかし、生活は厳しい。エベレスト近くで生まれた農園主パサン・シェルパ氏は、トウモロコシやジャガイモを野生動物に荒らされてきたため、十数年前に見切りをつけ、(動物に食べられない代わりに)あまり価値もなさそうな植物を育てることにした。ミツマタだ。ヒマラヤに自生する常緑の低木で、黄色い花を咲かせる。農家では、囲いや薪に使うために育てていた。

 このミツマタから採った樹皮が「お金になる」日が来ようとは、シェルパ氏には思いも寄らなかった。だが、アジアの最貧地域が、最も豊かな部類の国の経済に欠かせないものの主要原料の供給元になるという、あまり例をみない交易の結果、そうなったのだ。

 日本の紙幣は特殊な紙に印刷されており、その原料は日本だけではまかなえなくなっている。日本の人々は昔ながらの紙幣が大好きな上に、今年は新札への切り替えで大量に必要になる。だから、シェルパ氏や近隣住民にとって、ミツマタ栽培地は利益を生み出す宝の山となる。

 「この原料が日本に輸出されるとも、お金を生み出すとも思っていなかった」とシェルパ氏は言う。「今はとてもうれしい。降ってわいた成功だ。なにせ自分の庭で育っているんだから」

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ミツマタの樹皮が日本に輸出され、紙幣に。きっかけは日本のある会社の社会貢献活動でした。

 そこから2860マイル(約…

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