コロナ禍をきっかけに生まれた山口県立小野田高校総合文化部の短編小説集が、ついに完結した。最終作も、県内の名所を舞台に高校生の感性を生かした作品がそろった。タイトルには、地元と読者への愛情がにじむ。「ず~っと山口県ショートショート~これからも いっしょに~」
短編小説集は2021年3月に第1作が発行され、今作で6作目。1~3作は山陽小野田市内、4作目以降は市内外の山口の名所を取り上げた。
足かけ4年。登場する舞台は約100カ所にのぼる。約50人の部員が執筆に関わった。
部員と顧問の白石由美教諭が大事にしたのは、リアリティー。読者に温度やにおいを感じてもらおうと、部員らの思い出の地が登場する。
企画したのは、新型コロナウイルスの感染拡大により、外出や人との接触がままならない頃。「日常」が奪われた学校生活のなか、白石教諭が考えついたのが、アナログな紙媒体による短編小説集だった。
高校生の物語は読者の心をつかんできた。「若いっていいですね」「亡き夫と歩いたあの場所がよみがえった」。高校には、感想をつづった多数のファンレターが届いている。
最終作で取り上げたのは、「錦帯橋・鵜飼(うかい)」(岩国市)や「明倫学舎・白壁」(萩市)など、県内26カ所。「はじめに」で読者に呼びかけた。
「高校時代は、一瞬の永遠!」
「私たちの想像力を覗いてみませんか」
白石教諭は「高校生による発信として、誰もが通る青春時代を山口県のあたたかさとともに伝える挑戦は一つの区切りとしたい」と話す。
作品づくりは、一人の高校生の進路にも影響を与えた。
3年の永井由利子さんは、計5本の物語を書いた。白石さんから、何度も書き直しを指示されながら言葉を紡いだ。
そうするうちに、小説や他人の文章を「本当に言いたいことはこうではないか」と深く推察して読めるようにもなったという。作品を書くための取材で、永井さんが知らなかった地元の歴史や文化に触れられたことも印象に残った。
「自分が感じた面白さを伝えていける国語教諭になりたい」
大学に進んで、文学の世界をさらに探究しようと思っている。