救急車で大病院に運ばれた際、緊急性が認められなければ、お金を徴収される――。そんな地域が出始めている。6月から3病院で徴収する三重県松阪市に続き、茨城県でも22病院で12月2日から始まる。救急医療現場の逼迫(ひっぱく)を背景に、安易に利用する「コンビニ受診」などを減らすためだが、利用をためらうことを懸念する声もある。救急医療のあり方が問われている。
- 【そもそも解説】選定療養費って何?どんな場合にかかるの?
「救急車が無料のタクシー化している。一分一秒を争う救急搬送、救急医療のリソースを取られてしまうのは、非常に大きな問題だ」
茨城県の大井川和彦知事は7月、救急車をめぐる運用見直しを表明した。
救急車で県内の22の大病院に運ばれた際、緊急性がないと判断されれば、搬送先の病院に1100~1万3200円を支払わなくてはならない。初診で大病院に紹介状なしで受診した際に徴収される費用で「選定療養費」と呼ばれる。千葉や埼玉、福島など近隣県から搬送された場合も例外ではない。
茨城県内の病院はこれまで、救急搬送は「基本的に緊急性が高い」とみなし、患者に選定療養費を求めていなかった。なぜ、方針転換したのか。
県医療政策課によると、県内の救急搬送件数は2023年に14万件を超え、過去最多となった。近年は6割以上が一般病床数200以上の大病院に運ばれており、半数近くが軽症という。「包丁で右手指先を切り、血がにじんだ」「3日前から風邪の症状が続いて、家族が心配した」として救急要請を受けたケースもあったという。
救急隊が119番通報を受けてから患者を病院に運ぶまでの救急搬送時間は平均48.3分で全国平均を上回る中、搬送先の病院が決まるまでに時間がかかった重症者の人数が増えており「このままの状況が続くと救える命が救えなくなる」とし、選定療養費の徴収に踏み切った。
徴収するかどうかは各病院が判断するため、県は徴収される目安を示している。「微熱(37.4度以下)のみ」「打撲のみ」「慢性的または数日前からの歯痛や腰痛」などの症状は緊急性が低いと例示し、「とりあえず救急車」ではなく、かかりつけ医や地域の診療所などの受診を勧める。
逆に「物をのどに詰まらせて、呼吸が苦しい」「けいれんが止まらない」「広範囲のやけど」などの症状がみられれば、緊急性があると判断される可能性が高いとし、ためらわずに救急車を呼ぶよう促している。
救急車で運ばれてきた軽症患者から選定療養費を取ることは厚生労働省が認めており、実際に徴収している医療機関もある。さらに、茨城県のように、自治体主導で取り組む事例が出始めた。
救急車を呼ぶべきかどうかーー。茨城県が示した目安の一覧表は、記事の末尾で紹介しています。
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