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翰林大学でのシンポジウムでマッコリを手に話をする丁章さん。マッコリをのみながら「故郷」について考えたことを語った=本人提供
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 「無国籍者」として生きる在日コリアン3世の詩人、丁章(チョンヂャン)さん(56)=大阪府東大阪市=が生涯で初めて自身のルーツの地である韓国を訪ねた。念願の祖国の地に足をつけたが、意外にも冷静な自分に驚いた。到着したその夜、丁さんはひとりでマッコリをのみながら考えた。自分にとって「故郷」って何だろう。

 丁さんは京都で生まれ、幼児期を東京で過ごした。東大阪の市立小中学校には通名(日本名)の「大島章」で通った。10歳の頃、韓国で船員をしている親類のおじさんから名前の「あきら」のハングルでの書き方を教わったのが母国の言語との出会いだった。

 中学では在日の生徒が集まる民族学級に参加し、自分は何者かを考え、悩んだ。大学では本名を名乗り、専攻の中国語とともに朝鮮語を学んだ。20代半ばの夏、中国の朝鮮族自治州・延辺へと渡った。同胞と交流してコリアンとしての自覚が高まり、その後も繰り返し訪れた。祖父母の故郷である韓国への思慕も深まった。

 だが、渡韓はできなかった。

 丁さんが持つ特別永住者証明…

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