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デジタル連載「8がけ社会 消滅の先へ」

■A-stories 8がけ社会 消滅の先へ(2)

 島根大の作野広和教授(56)が、過疎化でいずれ人が住まなくなる集落の「むらおさめ」を提唱したのは、2006年の経済地理学会だった。

 今いる住民の生活を支援しつつ、余力があるうちに、集落の歴史や民俗を記録し、住宅や田畑は所有者を明確にした上で行政と一体で計画的に保全する考え方だった。

 「集落がなくなるのは仕方がないとは思わない。でも、すべてを維持するのは難しい」。実情に応じて「集落のみとり」と文化や資源の継承をすすめるべきだ、と訴えた。

 当時は「聖域なき構造改革」を掲げる小泉政権のただ中。国は過疎地域に自立を促し、特産品開発や都市部との交流で地域活性化に成功した事例をモデル地区とたたえた。

  • 記者コラム|廃村に立って考える「消滅」の意味 消えゆく暮らしを伝える意義とは

 「むらおこし」が推奨される風潮の中、作野さんの提案は批判の的となった。

 「消滅を前提に考えること自体がナンセンス」「がんばっている地域に目を向けるべきだ」

 状況をよく知るはずの研究者仲間から特に強い反発を受けた。

連載「8がけ社会 消滅の先へ」

 地方の「消滅」危機が唱えられて10年以上が経ちました。日本の人口はさらに縮小し、並行して現役世代が2割減る「8がけ社会」へと向かいます。すべての自治体が今のまま続くとは考えにくい。だからこそ「消滅の先」を描こうとする各地の取り組みから、地方の未来を考えます。

 あれから19年。止まらぬ少子高齢化や人口減少といった「不都合な真実」から目を背け、成長を志向した過疎対策は、地域の縮小や消滅を止める力にはならなかった。集落はなし崩し的に細り、人知れず消えている。

「行政も線引きを」 過疎地の住民の求めたもの

 「『成功』するのは一握り…

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