がん患者自身の免疫細胞を「改造」して治療に使うCAR(カー)―T(ティー)細胞療法。2019年の公的医療保険の適用から5年がたった。対象のがんの種類や実施施設は増え、実績も積み上がってきた。この治療法の実力や課題は。

 CAR―T細胞を含む液体が、ベッドに横になった患者の静脈に点滴で静かに投与されていく。時間はわずか30分ほど、投与は1回で済む。

 「準備は入念だけど、あっという間。ちょっと拍子抜けでした」。東京都立駒込病院腫瘍(しゅよう)内科の下山達部長は、初めてCAR―T細胞療法をしたときのことを、こう振り返る。

 ただ、その後、この治療法の威力に衝撃を受けたという。「どんなに治療を頑張っても余命半年、とされていた患者さんが、寛解をめざすことができるようになった」

免疫細胞を「改造」

 CAR―T細胞療法は、患者の血液から、がん細胞を攻撃する能力がある「T細胞」を採取し、遺伝子導入をしてから体内に戻す新しい治療法だ。

 遺伝子導入によるT細胞の「改造」が治療のカギだ。T細胞は改造によって、がん細胞の表面に出た「CD19」という分子を「敵の目印」とみなすようになる。体内に戻し、目印を見つけたT細胞は、何倍にも増えてがん細胞を攻撃する。

写真・図版
CAR-T細胞療法の仕組み

 現在CAR―T細胞療法の対象となっているのは、血液がんのうち、「B細胞」という免疫細胞の一種ががん化する一部に限られる。B細胞由来のがんでしか目印であるCD19を目印に使えないからだ。

 2019年、日本で最初のCAR―T細胞療法の製剤「キムリア」が承認された。使えるのは、若年者の「急性リンパ芽球性白血病(略称:B―ALL)」と、「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)」という、主に成人で発症する「悪性リンパ腫」と総称される血液がんの一部だった。その後、「濾胞性(ろほうせい)リンパ腫(FL)」という悪性リンパ腫の一種も対象になった。

 21年には、使える患者の基…

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