蛇口の閉め忘れが増えたのが始まりだった。
70歳過ぎまで商店を営み、しっかり者だった母(96)に違和感を抱いたのは10年近く前。埼玉県所沢市の男性(69)は築70年ほどの住宅に母と2人で暮らし、介護を続ける。
母のアルツハイマー型認知症は徐々に進行した。家にいる間は、外に出て行くこともあり目が離せない。就寝中は2~3時間に1回、オムツを替える。目の前に息子がいても、「どこ行った?」と探す姿はやりきれなかった。それでも決めている。「迷惑をかけてきた。みとるまで面倒を見よう」
だけど、このままだとパンクすると思う夜もある。ささいな出来事、ちょっとした悩み。受け止めてくれた母はもういない。話を聞いてくれる「誰か」が必要だった。
そんな時、テレビ番組で見た「便利屋」をふと思い出し、電話をかけた。「話し相手になってもらえないか」
連絡したのは「クライアントパートナーズ」。女性スタッフだけで運営し、20~90代の約400人が登録する。
未婚の男性には「女性と話をしたい」という気持ちもあった。ただ、恋愛は煩わしい。趣味を通してSNSでつながる「友達」もいるが、介護のことまで話せる仲じゃない。話をしたいときだけお願いできる存在が欲しかった。
母がデイサービスに行く平日の昼間に2~3時間、駅の近くのカフェで話をした。1時間5千円ほど。「安心は金額以上だった」
以来、月2回利用する。趣味の昭和歌謡から介護の話にわたり、心ゆくまで聞いてもらう。
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