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ALSをテーマにした映画に出演した佐藤裕美さん=東京都豊島区、葛谷晋吾撮影
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 徐々に筋力が衰えていく難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者たちをテーマにした映画が完成した。「苦しさの渦中にある人と、日々をともにするような映画に」。5人のALS患者と介助者らの日常が描かれた作品には、そんな思いが込められている。

 難病患者や重度障害者の姿を伝えるドキュメンタリー作品などを撮り続けている映画監督の宍戸大裕さん(42)が手がけた。

 出演者の1人、東京都豊島区の会社役員、佐藤裕美さん(53)は2014年、富士山を下山中に突然力が入らなくなった。

 うずくまって一歩も動けなくなり、抱えられながら下山した。その後、歩いていても靴底から滑り落ちるような足の感覚が続いた。靴がたびたび脱げた。18年9月、ALSと診断された。

 「映画に出ませんか」。知り合いだった宍戸さんから、ALS当事者を描く作品への出演を依頼された。

 「宍戸監督ならちゃんと撮るんだろうな」。20年10月、撮影が始まった。だが間もなく、撮られることが「死ぬほど苦しい」と思うようになった。

 「病気が進行し、動かなくなっていく姿、苦悩を撮りたいのか」

 「途中で私が死んだらこの映画は売れるの?」

 病気への不安と孤独感。毎日のように泣いた。

 撮影前、宍戸さんから「嫌なら嫌と伝えていい」と言われていたことを思いだした。

 撮影開始から9カ月経った21年夏。宍戸さんに「もう無理です」と伝えた。

 やめるとすごく楽になった。

 それでも宍戸さんは自宅にやって来て、たわいもない話をして帰っていく。1年ほど、そんな時期が続いた。

 その間、佐藤さんは改めて「生」と「死」についての思いを深めていった。

 撮影開始前年の19年、京都で起きたALS患者の嘱託殺人事件。

 事件を巡って「安楽死」「尊厳死」という言葉が世の中を飛び交い、当事者不在のまま「死」についての議論が進んでいく様子が怖かった。

 進行する病。「なぜこんな思…

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