イタリア・フィレンツェで14日まで開催された世界最大級の紳士服展示会ピッティ・ウオモ。2025年春夏シーズンの今回、主催者側が掲げた今回のテーマは「レモン」だった。最初は意味が分からなかったが、みずみずしさ、若々しさなどを連想させるためだという。

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 コロナ禍が始まる前、ピッティの期間中には会場であるバッソ要塞(ようさい)内のメインパビリオン前で、鮮やかな色のスーツを着用してメディアに写真を撮られるのを待つ「撮られ待ち族」が多数いて、それが名物の一つだった。だが、いまでは撮るほうも撮られるほうも年々少なくなってきた。

親子でおそろいのスーツ姿=13日、フィレンツェ、後藤洋平撮影

「とにかく派手な装いで目を引こうとしても、SNSなどでの反応がイマイチなのだ」と関係者からは耳にした。そうした状況でも、やっぱり親子そろってキメたスタイリングを見かけると、ついレンズを向けてしまう。猫を胸元で抱えている「撮られ族」がいたとしても、きっと同じように反射的に撮ってしまっていただろう。

ブルネロ・クチネリ

 メインパビリオンの中で最も人気の高い「メイン・オブ・メイン」のブランドの一つが、地下に巨大なブースを構えるブルネロ・クチネリだ。超高級素材を惜しみなく使うハイブランドで、ブース内にいるバイヤーら関係者がつけている時計もパテックフィリップなどの一流ブランドが多かった。

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パステルカラーがキーワードの一つだったブルネロ・クチネリの新作=11日午後1時4分、フィレンツェ、後藤洋平撮影

 今回発表したシーズンの特徴はパステルカラーを効果的に使った装い。軽やかな素材のダブルのスーツ、淡い色のデニムに合わせるのもさわやかだ。靴のソールに表革ではなく高価で柔らかい(でも一般的には耐水性に弱い)ヌバックが施されているのも、いかにもハイブランド。雨が多い日本では普通の表革の底でも傷まないよう購入してすぐにラバーを貼り付ける人も多いので、「この靴で、もしそんなことをするのなら、もったいないな……」と思ったが、こうした靴(超高級品です)を購入できる人は、ラバーソールを貼ることも、貼ったとてもったいないと考えることもないのかもしれない。

 サイドにピンを挿すことができるパンツなど、ゴルフウェアの展開もあった。透けるような薄い上質なウールで仕立てたポロシャツも、すごく着心地がよさそう、かつスタイリッシュ。もしスコアが悪かったとしても、この装いは確実に自慢できる。

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ゴルフウェアのパンツには、サイドにピンを差し込める仕様が
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ブルネロ・クチネリのゴルフウェア=11日、フィレンツェ、後藤洋平撮影

ポール・スミス

 ピッティ・ウオモは毎回ゲストデザイナーを招いてショーなどのイベントを開催しているが、その試みは1993年のポール・スミスが初めてだったという。今回31年の時を経てフィレンツェでの発表に戻った。会場は19世紀に建てられた市内の邸宅。プレゼンテーションが始まる前には待機用の部屋でドリンクが提供され、紙ナプキンやマッチ、砂糖に「Bar Paul」の文字が。

 本番が始まると、ポール・スミス自身が一つ一つの服やルックについて説明を始めた。ブランドの柱のひとつであるテーラードを基軸とし、緩めたネクタイなどでドレスダウン。米デニムブランドのリーと協業アイテムも登場したが、これは1970年代初頭にポール自身がノッティンガムで最初に開いた店でリーのペインターパンツを輸入し、販売していた思い出からだという。

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ポール・スミス自身が一つ一つのアイテムについて説明したプレゼンテーション=11日、フィレンツェ、後藤洋平撮影
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プレゼンテーション前のバースペースで=11日午後5時5分、フィレンツェ、後藤洋平撮影

ヘルノ

 ピッティ・ウオモの常連では、ヘルノも日本で支持されている。少し前まではダウンなどをメインにしたアウターのブランドというイメージが強かったが、PR担当者いわく「最近はトータルコーディネートで展開し、認知されてきた」。背景にあるのは地球温暖化。元々ダウンなどが強いブランドは秋冬シーズンは堅調だったが、春夏シーズンをどうするかが課題でもあった。今やアウターを前面に押し出す戦略だけでもリスキーなのだという。

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アウターブランドからトータルコーディネートのブランドに変貌したヘルノ=11日、フィレンツェ、後藤洋平撮影

 とはいえ得意分野は生かされている。春夏シーズンでも春先にアウターとしても需要のある中綿のジャケットは1平方メートルあたり60グラム使っていた綿の量を30グラムに減らして気候への対応と軽量化を図った。担当者は「社をあげて軽さを追求している」という。

 そんな言葉を聞いて改めてブースを見回すと、「実はヘルノは旅に超便利では?」と気づいた(遅い!)。化学繊維を多用しておりシワを気にせずスーツケースに入れられる。セットアップがいくつもあり、個別にも着られるし同時に着れば旅先でもキチンとしたスタイリングになる。そして飛行機に乗る際に手荷物の重量制限を考えても助かる。まさに自分が出張しながら取材しているから、より強くそう考えてしまったのかもしれないけれど。

 ピッティ・ウオモ最終日の14日午前、ひとり特急列車に乗って陸路でミラノに移動した。同日午後からはミラノ・メンズファッションウィークの公式スケジュールとしてモスキーノやディースクエアード2のショー、日本人デザイナーの桑田悟史が手がけるミラノを拠点にしたブランドでLVMHプライズを獲得したセッチュウのプレゼンテーションなど、すでに多くの取材予定がある。2時間の移動時間で原稿を書き、ホテルに着くと荷ほどきをする時間がなく、そのまま取材先に向かった。(つづく)(編集委員・後藤洋平)

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