人間の目に見えない振動を3次元でデータ化する高速カメラスタジオ=2024年9月18日午後1時9分、広島県東広島市、副島英樹撮影

 新たなものづくりを産学官で推進する「広島大学デジタルものづくりイノベーション拠点」が9月、広島中央サイエンスパーク(広島県東広島市)にオープンした。ここでどんな先端研究が進められるのか。

 新たな拠点は鉄骨2階建てで、延べ床面積は約2千平方メートル。9月18日にあった開所式典に合わせ、三つの最新研究が紹介された。

 まずは、「高速カメラスタジオ共創研究室」。縦6メートル、横8メートル、高さ3メートルの撮影空間に、毎秒1千枚以上の画像を捉える高速度カメラが計32台、設置されている。人間の目には見えない振動を、リアルタイムで3次元データにして表示できる。

 ものづくり現場をはじめ、医療・バイオ、スポーツなど多様な分野で応用可能で、担当する石井抱(いだく)教授は「どう活用できるか、広くアイデアも募っていきたい」と語る。

 第二は、「スマート空調プロジェクト研究」。EV(電気自動車)の省エネと快適性を両立させるために、空間全体の温度を変えるのではなく、どの人体部位を冷やせば人は涼しく感じるかなど、人間の温冷感を定量指標化する。さらには人間の表情をカメラで読み取って感情を推定し、それもシステムに統合する。

 マツダ技術研究所の統括研究長でもある西川一男・広島大特任教授は「心理の影響も考慮する文理融合の研究です」。

 第三は、「スマート蓄電池プロジェクト研究」。自動車産業のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出の実質ゼロ)化の鍵を握るのはEVの蓄電池システムの開発だと言われる中で、軽量・コンパクト化と頑丈さという相反する機能を両立させる技術の確立をめざす。機能制御や評価方法のモデル化を産学官で進め、地域産業とともに効率的な部品開発につなげる。

 プロジェクトリーダーの高見明秀・特任教授は「今まで分散していた研究を、ここに集結できました」と語った。

 この拠点は、2022年度第2次補正予算「地域の中核大学等のインキュベーション・産学融合拠点の整備」による経済産業省の補助や、多くの企業からの寄付金で建設された。開所式典には、広島大の越智光夫学長やマツダの菖蒲田清孝会長、東広島市の高垣広徳市長ら約50人が参加した。(編集委員・副島英樹)

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