写真・図版
瓶詰め作業の合間に取材に応じてくれた藤野浩史さん=2024年12月26日午前、石川県珠洲市野々江町、小崎瑶太撮影

 石川県珠洲市野々江町の麦焼酎専門メーカー「日本醗酵(はっこう)化成」が11月末、能登半島地震後初めての瓶詰め作業にこぎ着けた。

 受注を再開するや、注文が殺到。1カ月で約1万5千本を出荷した。

 廃業も考えたという社長の藤野浩史さん(46)は「今年中に詰めるところまでいけて本当によかった」と話す。

 同社にとっての震災は2024年元日の1度ではない。

  • 輪島塗、能登牛、焼酎 壊滅的被害から再起へ、推し続けるファンの力
  • 地震で被害の焼酎メーカー、窮地から阪神と歩んだ「うれし涙」

 22年6月、珠洲市が震度6弱の地震に見舞われ、敷地に亀裂が走った。23年5月にも6強の揺れがあり、熟成用のたるから焼酎が流出し、蒸留器も壊れた。私(25)が藤野さんに出会ったのは、その年の11月だった。

 製造ができない中、タンクに残った焼酎「虎の涙 18年熟成」を販売。プロ野球・阪神タイガースの18年ぶりセ・リーグ優勝にも励まされ、藤野さんは「来年は酒造りを再開したい」と笑顔をみせていた。

 奥能登で最大震度7を観測したのはその2カ月後だった。

 100本超の貯蔵タンクが傾き、麦を蒸す機械も倒れた。量れないほどの焼酎がたるから流れ出た。藤野さんは子どもを金沢の親族の元に避難させ、日々の暮らしで精いっぱい。「今度こそ廃業するしかない」と考えた。

写真・図版
熟成焼酎「虎の涙」を貯蔵するタンクも土台から落ちて傾いた=2024年4月13日、石川県珠洲市野々江町、小崎瑶太撮影

 残った焼酎を少しでも販売す…

共有