高校生なのに、「パパ」?

 18日に開幕する第97回選抜高校野球大会に出場する市和歌山の井上漸晟(ぜんせい)選手(新2年)にとって、観客席からの応援でひときわ心を奮い立たせる声があるという。

 「ちいぱぱー!」

 10人きょうだいの末っ子、3歳の源乃城(げんのじょう)くんからの声援だ。

 井上は5番目の三男。年の離れたきょうだいの面倒をよく見る井上を、弟たちは「小さなパパ」の意味で「ちいぱぱ」と呼ぶ。

 身長173センチ、体重85キロの立派な体格、ゆったりとしたしゃべり方、笑うと目が線のように細くなってしまうところ……。どれも父の真吾さんにそっくりなことも、ちいぱぱと呼ばれる理由だ。

 「源乃城は3歳なのに、投げたボールを結構打ち返すんですよ」。そう話す井上の目が、また線のようになった。

 中学では届かなかった全国の舞台をめざして、市和歌山に進学した。和歌山県南東部にある新宮市の実家からは遠距離で通学が難しく、学校のそばで一人暮らしをしている。

 実家はいつもにぎやかだった。試合の前夜は「静かに寝かせてほしい」と思っていた日々も、今は「しーんとしていて寂しい」。ベッドに入ると、外で車が走る音が聞こえて新鮮だった。

 進学を後押ししてくれた両親、自分と同じように野球チームで白球を追うきょうだいたち。家族を思えば、野球も慣れない家事も頑張れた。

 昨秋、打撃で猛アピールした。9試合に出場して打率は3割9分4厘。近畿大会出場をかけた県大会の3位決定戦では、終盤に勝ち越しの2点適時打を放った。「チームで1番の勝負強さがある」と評価され、一塁手のレギュラーとなった。

 打席での勝負強さは、きっとあの声援のおかげだ。「打席に入る前だと、弟の甲高い声が聞こえるときがあるんです。中途半端な姿は見せたくないって思えます」

 1回戦は大会第2日の19日。相手は優勝候補の一角に挙げられる横浜(神奈川)に決まった。きょうだいたちも応援に来る。「同じ舞台に立ちたいと思ってもらえたら」。末っ子の心にも残る快音を響かせたい。

13日の甲子園練習で守備につく市和歌山の井上漸晟選手
13日の甲子園練習で守備につく市和歌山の井上漸晟選手
市和歌山の井上漸晟(ぜんせい)選手(後列左から4番目)は10人きょうだいで、3歳の源乃城(げんのじょう)君(手前)が末っ子=井上選手提供
市和歌山の井上漸晟選手
昨秋の和歌山県大会3位決定戦で勝ち越しの2点適時打を放ち、一塁上で喜ぶ市和歌山の井上=2024年10月6日、紀三井寺、寺沢尚晃撮影

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