「十二宮・落日の獅子吼(ししく)」 挿絵・風間サチコ  現代社会をイメージした作品を毎月掲載します。

論壇時評 宇野重規・政治学者

 岸田文雄首相が9月の自民党総裁選不出馬を表明した。自民党裏金事件をめぐって指導力を厳しく問われ、低支持率に苦しんだ末の首相退任である。党再生に向けて「最初の一歩は、私が身を引くこと」という言葉が象徴的である。岸田政権の3年間とは何であったか、首相がなしたこと、やり残したことを考えてみたい。

 現在のところ、まだ本格的な岸田政権論は多くないが、フォーサイト編集部が紹介する海外メディアの分析に興味深い岸田評が見られる(❶)。例えば「フィナンシャル・タイムズ」特派員のレオ・ルイスは、安倍晋三元首相のように強いイデオロギー性を持たなかったがゆえに、岸田首相はむしろ大胆不敵であったという(❷)。特に外交政策では、EU(欧州連合)やNATO(北大西洋条約機構)、オーストラリアなどとの協力を強化し、韓国との関係を改善した点があげられる。防衛費増額や原発推進への方針転換など、はたして十分な国民的な議論を経たかについては大きな疑問が残るが、岸田首相ならではの大きな転換であった。その意味は問われ続ける。

厳しい日本の現状 今後に持ち越された課題

 経済政策についてエコノミストの熊野英生は、新NISA(少額投資非課税制度)を含む資産所得倍増計画や高い賃上げ率の実現、金利正常化への前進を評価する一方、「新しい資本主義」は「中身が煮詰まらなかった」と指摘する(❸)。財政再建も道半ばに終わった。

 前財務官の神田真人らが指摘するように、国際収支から見ても、日本の現状は厳しい(❹)。昨年度の経常黒字こそ過去最大であるが、貿易では稼げていない。「自動車の一本足打法」が続くが、自動化・電動化が進む業界の将来は不透明である。輸入は化石燃料依存が続き、価格高騰に翻弄(ほんろう)される。デジタル化が進むほど国際的には赤字化が進み、インバウンドの黒字分を食い潰している。日本への投資増加の課題は今後に持ち越された。

 「異次元の少子化対策」も効果は未知数だ。2023年の合計特殊出生率は1.20となり、統計を取り始めて以来、最低となった。中でも東京は0.99とついに1を割った。国立社会保障・人口問題研究所の小池司朗が東京の出生力について詳細に解説しているが(❺)、長年にわたり東京の低出生率の問題を隠していた東京圏への一極集中にもかかわらず、40年には東京ですら人口減少に転じるという。事態は深刻化している。

 バブル崩壊後、新規学卒者の…

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