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和歌山地検に入る木村隆二被告=2023年4月17日、和歌山市、柴田悠貴撮影
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 和歌山市の選挙演説会場で2023年4月、岸田文雄首相(当時)の近くに爆発物が投げ込まれた事件で、殺人未遂や公職選挙法違反など五つの罪に問われた無職木村隆二被告(25)の裁判員裁判が4日、和歌山地裁で始まる。

 「選挙活動の安全」が改めて問われた事件だが、背景は明らかになっていない。捜査段階で黙秘した被告は、公判でどのような主張をするのか。

 事件は23年4月15日、衆院和歌山1区補欠選挙の演説会場だった雑賀崎(さいかざき)漁港(和歌山市)で起きた。

 起訴状などによると、木村被告は22年11月以降に、兵庫県川西市の自宅などで火薬と二つの「パイプ爆弾」を自作。和歌山市に移動すると事件当日、うち一つを演説会場にいた岸田氏に向けて投げ込んで爆発させ、聴衆と警察官の計2人に軽傷を負わせたとされる。

 爆発は投げられてから約50秒後で、すぐに現場を離れた岸田氏にけがはなかった。

 前年の22年7月には、奈良市で参院選の応援演説をしていた安倍晋三元首相が銃撃され、死亡した。選挙活動や演説会場の安全確保といった課題が再び浮き彫りとなった。

焦点は動機の解明 「被告本人の認否聞いて」と弁護人

 公判では、動機が明らかになるかが注目されるとともに、岸田氏に対する殺意があったか▽爆発物に殺傷能力があったか▽選挙運動を妨害する狙いがあったか――などが争点になりそうだ。

 検察側は、爆発物の専門家などを証人に呼び、人を殺傷する能力があったことなどを立証するとみられる。約200人が集まる会場に爆発物を投げ込んだとして、被告には殺意があったと主張する見通し。

 木村被告は、捜査段階では黙秘を続けたとされる。取り調べでは、検事が「引きこもり」「替えがきく」などと繰り返し被告を侮辱した問題も発覚した。捜査関係者によると、供述調書だけでなく、生い立ちなどを記す身上調書も作られていないという。

 一方、被告は、自身の弁護人には事件について口を開いたという。

 関係者によると、演説会場に何らかのものを投げ込んだことは争わない方針とみられる。殺意があったかどうかなどの主張について、弁護人は「(初公判で)被告本人の罪状認否を聞いていただきたい」と朝日新聞などの取材に語った。

国賠訴訟、国葬批判との関係は

 木村被告は、事件前の22年6月に「国賠訴訟」を起こしていた。

 参院選に立候補しようとしたが公選法が定める被選挙権(30歳以上)の年齢に満たず、立候補できなかったため精神的苦痛を受けた――。そう主張して、国に損害賠償を求めた。

 訴えは22年11月、一審の神戸地裁で棄却された(二審で敗訴確定)。これは、木村被告が火薬とパイプ爆弾を作り始めたとされる時期と重なる。

 また、地裁に出した書面では、安倍元首相の国葬を岸田政権が決めたことを「世論の反対多数の中で強行した」と批判していた。

 和歌山地裁は5日間の期日を指定した。6日に被告人質問、10日に論告、弁論があり、判決は19日に言い渡される予定。

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