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インタビューで笑顔を見せる瀬戸内寂聴さん=2017年11月、京都市右京区

江國香織さんに聞く⑤

 瀬戸内寂聴さんは戦後、年下の青年と恋に落ち、幼い娘を置いて家を出た。その後も激しい恋に生きた。「号泣する準備はできていた」「冷静と情熱のあいだ」など数々の恋愛小説を書いてきた江國香織さん(60)には、寂聴さんの恋はどう映っていたのか。

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 ――寂聴さんの激しい恋をどう感じられますか。

 子どもを置いて家を出たことは詳しく語られなかったですね。ただ、「胸に石が詰まったように、ずっと抱えている。その痛みに苦しみ続けている」と何度もおっしゃっていました。

 ほかの恋愛については、ご本人から聞いたわけではありませんので、書かれたものや人に聞いた話から想像するしかありません。でも、意思の強さを感じます。

 さすがだなあと思うのは、どれだけ恋を重ねても、相手の家庭を壊さないことです。その強い決心は、慎み深いなあと思います。激しいけれども清潔な感じ、なんて言ったらいいのかな、道を外れていませんよね。

 もちろん、道ならぬ恋ではあったけれども、道ならぬ恋をしても道を外さない。寂聴さんが人として、よいと思うこと、よくないと思うこと、その道は外さない強さがあったと思います。

止まらないぐらい語り続けた源氏物語

 ――恋愛といえば、寂聴さんは源氏物語の現代語訳を完成させています。

 源氏物語はモンスター級の物語ですよね。作者がわかっていて、千年も残っている小説は、ほかにありません。恋愛だけをとっても、ありとあらゆる要素が描かれています。

 山崎ナオコーラさんの本(「ミライの源氏物語」)でも紹介されていましたが、今だったら大問題になるロリコン、マザコン、パワハラ、セクハラ、そういったもののすべてが網羅されている豊かな物語です。

 角田光代さんが現代語訳を始める前、角田さんや井上荒野さんと一緒に京都の寂庵(じゃくあん)にお邪魔しました。「自由におやりなさいね」と角田さんにおっしゃったうえで、源氏物語をどんなに好きか、光源氏や姫君たちの気持ちをどれだけ考えてきたか、もう止まらないぐらい語り続けられていました。

 寂聴さんは源氏物語の現代語訳の前に「女人源氏物語」を書いていますよね。

光源氏は「本当に、いい男よ」

 ――1984年から書き始め、源氏物語に登場する女性たちを描いています。

 自由さがあって、とてもおもしろい作品です。光源氏に恋した姫君たちの心の声をもっと書きたいと思うなんて、寂聴さんらしいですよね。徹底的に物語に入っちゃう方なんだなって感じました。

 そのころ、寂聴さんにお目にかかったのですが、「光源氏に夢中になっちゃったのよ、私は。源氏は本当に、いい男よ」と、あたかも会ったかのように話してくださいました。

 ――光源氏に恋していたのでしょうか。

 プライベートで会ったときも源氏の話をされていました。「最近の若手の作家がハンサムで、寂庵にもよく来てくれるのよ」と、いい男の話をするなかで、必ず源氏の話題になりました。現代語訳をしている最中は、光源氏に恋をしているような気持ちだったのかもしれません。

 ――作家として、そこまで入り込むことはありますか。

小説、反戦平和、社会活動……。寂聴さんの情熱について、江國さんが記事の後半で語ります。

 アメリカの作家のトレヴェニ…

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