初めて立つ甲子園球場のグラウンドは、思っていたよりも何倍も広かった。緑の芝生が、どこまでも続いているようだ。
そして、こう感じた。
「これが選手が見ている景色。見下ろされているみたいで、怖いな」
アルプスの夏音
高校野球の応援の演奏をめぐる物語
智弁和歌山の吹奏楽部でバリトンサックスを吹く清水利穏(りおん)さん(高2)がそこに立ったのは、昨年6月の「甲子園ブラスバンドフェスティバル」。各地の学校が高校野球の応援曲を披露し合う祭典だ。
それまでにも、アルプススタンドで応援曲を奏でたことはあった。だけど、いまはグラウンドで視線を集めている。ぐるりと囲む観客席に、そそり立つ壁のような圧迫感を覚えた。楽器を構える手に、今までにないプレッシャーがかかった。
遠くに見えたスタンド
智弁和歌山に小学校から通い、テレビに映る甲子園での応援団に憧れた。初回の攻撃の時に必ず流す「アフリカンシンフォニー」、力強いドラムと重厚な和音で球場の雰囲気を一変させる「ジョックロック」。その楽しそうな姿は、まるで輝いているように見えた。
応援団員やチアリーダーを務…