接見室で、アクリル板越しに対面した被告の男は、腰が曲がり、小柄でやせていた。白髪は薄くなり、顔にはしわが深く刻まれている。耳も遠い様子だった。
記者が大きな声でゆっくり、はっきりと問いかけると、被告はうつむき加減にぽつり、ぽつりと答えていく。
神奈川県横須賀市で、84歳の夫が81歳の妻の首を絞めて殺害したとされる事件。50年以上連れ添った夫婦に何が起きたのか。記者との接見に応じた夫は少しずつ、妻とのことを語り始めた。
起訴内容などによると、浦辺登志男被告は11月24日、自宅で、妻秀子さんの首を帯で絞めて窒息死させたとされる。
県警によると、被告自身が「妻の首を法被のひもで締めた」と110番通報。殺人容疑で逮捕された後の調べに対して、認知症の症状が進み、歩くのもおぼつかなかった妻の介護を続けるなかで「先を悲観した」と供述したという。
記者は逮捕された直後に一度、浦辺被告に接見を申し込んだ。この時は、被告から「気持ちの整理がついていないので、今は会えません」と断られた。
だが、再び申し込んだ12月13日、浦辺被告は接見に応じた。
明るく飾らない性格だったという秀子さん。その思い出を語る中で、妻のおちゃめな一面を思い出して、ふと笑みを浮かべる場面もあった。
一方で、ここ数年の秀子さんの様子に話が及ぶと、顔を曇らせた。
浦辺被告との主なやりとりは以下の通り。
―体調はいかがですか?
前よりは眠れるようになりました。よく眠れるわけではありません。
―秀子さんはどんな方でしたか?
明るくて、立ち振る舞いが上手でした。
―何と呼んでいたんですか?
「ひでこちゃん」と。
―家事は秀子さんが担当していた?
はい。料理や洗濯を。
―好きな手料理は?
いやあ、これと言ってないですね。……(被告自身が)サバが苦手なんですが、皮をはいで裏返して出してくることもありました。嫌いなのに(笑みを浮かべる)。
―物忘れがひどくなってからの様子は?
過去の記憶がなくなっている感じでした。ふさぎこむことが多くなりました。会話はできるけど、少し経つと内容があやしくなりました。
―秀子さんにいま、どんなことを伝えたいですか?
「後を追えなくてごめん」、と。