長時間労働、異動、転勤は日本企業に付きものとされてきた。それが男性よりも女性に著しく不利に働くとしたら、差別と言えるのではないか。女性学の第一人者であり、東京大学名誉教授の社会学者、上野千鶴子さんはそう訴える。日本の働き方の問題点について、ジェンダーの視点で語ってもらった。
- 長時間労働の職種ほど正社員の女性少なく 67職種を朝日新聞が分析
日本型雇用は女性差別的
――女性の正規雇用率が20代後半をピークに急減する「L字カーブ」(折れ線グラフが横向きのL字に見えることからこう呼ばれる)が問題になっています。女性の場合、20代後半をピークに正規雇用率が減る一方、非正規雇用が増えます。女性たちはどうして正社員として働き続けることが難しいのでしょうか。
「いわゆるメンバーシップ型と言われる日本型雇用は、女性が正規雇用で長く働き続けにくい仕組みになっていることから差別的と言えます。これは、日本社会の岩盤規制でしょう」
「例えば、女性の昇進を妨げる最大の要因は、管理職の長時間労働です。日本では男性が家事育児をする時間が短く、働く女性の多くがワンオペでこなしています。長時間労働や広域転勤などに応じられる人材が評価されて昇進するのが日本企業の慣行であることから、女性を組織的・構造的に排除する効果があります」
――企業の言うままに働ける社員が評価されるということでしょうか。
「新卒一括採用で終身雇用を前提としたメンバーシップ型雇用では、個人の能力よりも組織への忠誠心が優先的に評価されてきたのでしょう。組織への忠誠心をはかる尺度のひとつが、長時間労働です。メンバーシップ型雇用にとっては、女性は忠誠心の疑わしい人材とみなされる。『企業は社員の能力よりも組織への忠誠心を評価しているのではないか』という仮説を企業の中間管理職以上の方たちに投げると、ほとんどの人がイエスと答えます」
メンバーシップ型雇用は日本企業の強みか
――確かに日本の企業に勤めていると、いろいろ思い当たることが多いです。
「あるシステムやルールが男…