鹿を収容する鹿苑のあり方を検討する有識者会議の冒頭の様子=奈良市の東大寺総合文化センター

 国の天然記念物である「奈良の鹿」の駆除エリア拡大を検討してきた奈良県が設けた有識者会議は2日、導入の見送りを決めた。畑を荒らすなどして捕獲される鹿の7割が特定の集落に集中しており、集落内の対策に優先して取り組む必要があると判断した。

 方針が示されたのは県の計画検討委員会に付属する「鹿苑(ろくえん)のあり方等検討部会」(リーダー=村上興正氏)。

 戦後、国の天然記念物に指定された奈良の鹿だが、そのエリアは合併前の旧奈良市一円に及ぶ。食害を訴えた農家との法廷闘争を経て、周縁の管理地区では駆除が可能になったが、奈良公園の保護地区にほど近い「緩衝地区」では生け捕りにされ、「奈良の鹿愛護会」が管理する鹿苑の特別柵で終生飼養されてきた。ただ昨年、鹿の衰弱など鹿苑の飼育環境の課題が明らかになり、対策の延長線上で、収容数を減らすために緩衝地区での駆除の解禁を1年かけて議論する方針が、今年3月に示されていた。

 その後、過去3年で捕獲された鹿の7割が同市川上町に集中していることがわかった。県と検討委のメンバーが現地を視察したところ、鹿の被害を防ぐ柵は設置されていても、高さが不十分だったり、破損したりしていたという。

 県の担当者によると、今後カメラを設置して鹿の侵入経路を特定し、食害を減らす対策に取り組む。

 駆除エリア拡大をめぐってはこれまで、県に方針の見直しを求める計約1万5千筆の署名が提出されている。

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