50代を超えた一定の年齢で管理職から自動的に外す「役職定年」を廃止する企業が相次いでいる。人事担当者らに取材すると、人手不足と「社員のやる気」という背景がみえてきた。
空調大手ダイキン(本社・大阪)は今年4月から役職定年を廃止した。定年を60歳から65歳に引き上げるとともに、これまで56歳に設定していた管理職の役職定年を廃止。59歳以下に適用していた資格等級、評価、賃金制度を、65歳まで継続する制度に変えた。
ダイキン人事本部ダイバーシティ推進グループ長の今西亜裕美さん(49)によると、社員に占める56歳以上の割合は、23年度末時点で20%強と「かなりのボリュームゾーン」。ベテランの力を生かすために年齢で区切るのをやめたという。
制度変更により、56歳以降の社員約200人の役職や賃金などが見直された。同時に社員の賃金アップも行い、労務費は対前年比で約10%増となったが、今西さんは「会社から期待され、モチベーションが上がった。肩書も給与も戻った分、成果を出さないと気を引き締めるベテランが増えている」と、制度変更の効果を語る。
大手住宅メーカーの大和ハウス工業(本社・大阪)も60歳になると一律で管理職から外し、給与をカットする役職定年を設けていたが、2年前に廃止した。
同社人事部長の河崎紀成(としなり)さん(49)によると、60歳以上の社員50人前後を元の管理職に戻したり、継続させたりした。給与カットもなくし、同じ役職なら60歳までと同じ水準で支払うようにした。
その結果、人件費は十数億円単位で膨張したという。それでも踏み切った理由は、人手不足と、役職定年によるシニア社員の「モチベーションの低下」を防ぐためだという。
年齢による労務管理自体を見直す動きも。電機大手NEC(本社・東京)は21年4月、56歳に設定していた役職定年を廃止。約千人を管理職に復帰させた。
パーソル総合研究所は22年、役職定年制の導入の有無などについて大手企業(34社)にヒアリング調査を行った。それによると、「制度あり」は31%、「(1~2年前に)新設」が13%、「制度を廃止」が16%、「廃止予定」(13%)、「制度なし」が28%だった。
調査をした同上席主任研究員の藤井薫さん(64)は、役職定年について「グローバル化による多様な働き方、エイジフリー、ジョブ型人材マネジメントの導入などの観点から、基本的になくなっていく方向ではないか」と予測する。(編集委員 森下香枝)