コンテンツ編成本部デスク 吉村千彰

 記者は取材時、写真に動画に録音に、と機器を使いこなすが、私が入社した35年前は、ノートにメモ、原稿は手書きでワープロもなかった。駆け出しの仕事で叙勲を受ける技術者に取材する時、先輩が「メモは見ず記憶だけで書いてみろ」。頭をフル稼働させた。若い脳だからできたんだろう。

「戦後の精神」の発見

 今回取り上げた記事は、2014年春、大江健三郎さんに夏目漱石の「こころ」について聞いたもの。大江さんは「難解で気難しい作家」という印象があるかもしれない。私も恐れていたが、実際に会うとチャーミングで丁寧で鋭くおしゃべりな人だった。この取材も3時間以上に及んだ。印象に残ることが多すぎ。というわけで、この記事は録音を起こした当時の記録を見ながら書いている。

 大江さんは事前に質問の提示を求めた。回答を準備するためだ。この時は、原稿用紙数枚に、万年筆で書いた回答の上に、さらに赤ペンを入れて準備してくれていた。そして「何でも聞いてください」、と。

(取り上げた文章へのリンクが文末にあります)

 「漱石の『明治の精神』は…

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