事前の予想を裏切る結果となった兵庫県知事選と名古屋市長選。東海テレビのプロデューサーとして「ヤクザと憲法」「さよならテレビ」など数々の名作ドキュメンタリーを手がけた阿武野勝彦さんは、メディアの足腰が弱ってきていることが、民意と報道の「ずれ」を生んでいるのではと考えます。既存メディアの報道にいま必要なものとは。
――兵庫県知事選や名古屋市長選は、いずれも予想外の結果と見えました。
「地元なので、名古屋市長選や河村たかしさん人気についてはなんとなくわかるんですよ。河村さんといえば『減税』で、河村さんが支援した広沢一郎さんも減税を前面に出した。減税か反減税かの単純な構図にしたことで、自民、立憲、国民民主などの相乗りで知名度も圧倒的な大塚耕平さんがまさかの敗北を喫した」
「斎藤元彦さんが勝った兵庫県知事選も、いろいろなものが全部吹っ飛ばされて、改革か既得権擁護かという単純な構図になったわけですよね。負けた稲村和美さんが『何と向かい合っているのか、違和感があった』と言いましたが、白か黒かの構図にのみ込まれてしまったからでしょう」
――SNSの影響が大きかったともいわれます。
「いまはあまりにも多くの情報があふれています。真偽を確かめられず、情報の取捨選択をスマホに頼るようになった。情報の海でおぼれそうになるなかで、『思考の外部化』が起きているのかもしれません」
――一方で、既存メディアの存在感は薄れているといわれます。
「兵庫で意外だったのは、地元紙の神戸新聞まで、ネット上で既得権益側のオールドメディアとして批判されていたことです。阪神大震災の時、地元に根ざした情報を発信し続けた神戸新聞は、地域の人に信頼されてきたメディアです」
「無駄」な取材を避けていないか
――既存メディアへの信頼が失われてきているのでしょうか。
「どのメディアも経営的に余…