【動画】産卵するイトウ。産卵床環境が悪化し絶滅の危機にひんしている=神村正史、足立聡さん撮影
北海道東部の釧路川水系で、「幻の魚」と呼ばれるイトウが絶滅の危機に直面している。上流での道路工事の影響などで、土砂が流入。産卵環境が悪化し、イトウが産卵行動をとっても、卵のほとんどが川下に流されてしまうためだ。
漫画家、矢口高雄氏が生んだ名作「釣りキチ三平」でイトウという「幻の魚」を知った人は多いのでは。記者もそのひとり。あの名作の舞台となった釧路川水系で、イトウが本当に絶滅するかもしれません。記者は旧知の写真家からの一報を受け、直ちに現場へ向かいました。
イトウは、国内最大級の淡水魚でサケ科に属する。北海道本島や北方領土が国内の自然繁殖地で、ごく限られた河川でしか繁殖が確認されていない。国際自然保護連合のレッドリストで最も絶滅の危険度が高いランクに指定されている。
早ければ、オスは4~6年ほど、メスは6~7年ほどで成魚となる。サケ(シロザケ)などとは違い、産卵行動後も死なず、一生の間に何回も繁殖に参加する。ふだんは川の中流や下流、湖などにいることが多い。
釧路川水系のイトウの最大の産卵場所は、ラムサール条約登録湿地である釧路湿原の北部付近にある。
アイヌの人たちが「チライアパッポ」と呼ぶフクジュソウの黄色い花が咲くころ、イトウは産卵のために沢をのぼる。「チライ」はイトウ、「アパッポ」は「咲く花」という意味だ。
イトウの産卵行動はこうだ。まず、メスが川底を尾ビレで掘って、卵を産み込むためのくぼみ(産室)を作る。そして、その上にメスとオスが寄り添うように並び、メスが卵を産み始めると同時にオスが精子を放出する。
産室を作る場所は、直径1センチ前後より大きな礫(れき)(小石)が広がる川底が最適だ。礫でできた産室は、ザルのような役割を果たす。産み込まれた卵は、礫の隙間を抜ける水の流れで産室に吸い付けられ、外へ流れ出ることはない。
最後にメスが上流から尾ビレで川底の礫をはね上げて、産室に礫を載せて卵を隠す。これで産卵床が完成し、常に新鮮な水が卵に供給されつつ、アメマス(イワナの仲間)などからの食害を防ぐことができる。
ところが、ここ数年間で、泥…