国の重要文化財が売られる……? 土地区画整理や文化財の維持管理をめぐり、資金繰りに困った寺の住職が「塔」の売却を検討している。海外のオークションなどへの出品も視野に入れているという。何があったのか。
売却が検討されているのは、天台宗寺院の密蔵院(みつぞういん)(愛知県春日井市)にある「多宝塔」。住職の男性によると、密蔵院は1328年に開かれ、僧の修行場として栄えたという。「多宝塔」は室町時代に建立された、国指定の重要文化財だ。
検討を始めたきっかけのひとつは、土地区画整理事業だったという。
寺がある熊野桜佐地区では2010年に区画整理組合が発足した。区画整理事業を管轄する市都市整備課によると、地域のそばを流れる庄内川の水害に悩んでいた住民と、整備を進めたい市の思惑が一致したという。
土地区画整理法では、区画整理事業の主体には都道府県や市町村など公的機関のものと、個人や組合などの民間のものがある。7人以上が共同して定款や事業計画を定め、施行地区内の宅地所有者や借地権者のそれぞれ「3分の2以上」の同意を得るなど必要な条件を満たせば、組合ができる。組合が成立すると、地区の住民全員が組合員となり、熊野桜佐地区では現在、住職を含む約850人が組合員だ。
住職や組合によると、区画整理の趣旨に住職は賛同するものの、組合側が求める境内の土地提供は難しいとし、担当者に対応の変更など希望を伝えてきたが、話が折り合わなかったという。
文化財の維持管理 かさむ費用
昨年3月、組合側からは土地提供がない場合、住職が支払わねばならない清算金は8300万円ほどの見込みだ、と口頭で伝えられた。
話し合いを重ねるなか、組合側が土地を実測して登記簿と差があることを確認、組合の定款にのっとり再度金額を算出した。今年5月ごろには、住職に清算金が3800万円ほどになる可能性があることを伝えたという。
だが、住職は「金額が減ったとしてもとても払えない」と頭を悩ませる。
背景には、文化財の維持管理に費用がかかることもある。塔を修繕する際には国の補助があるものの、寺の負担は400万円ほどになる。
また、防火設備などの管理にも費用がかかる。僧の修行場であったことから檀家(だんか)の数も少なく、所有する土地を貸し出して得られる収入から寺の固定費を捻出している状況だという。
苦肉の策が売却だ。
「多宝塔は地区の宝」の声も
01年に天台宗総本山の比叡…