愛犬とほほ笑む淳子さん。他界した後、夫の城アラキさんは遺影用の写真を探したがほとんどなく、「膵臓(すいぞう)がんで余命3カ月と告げられた後、自分が映ったものの大半を処分していたと思う」と振り返る=城さん提供

それぞれの最終楽章 最愛の妻の死(7)

漫画原作者 城アラキさん

 2010年4月3日未明、淳子さんは浜松の実家の部屋で旅立った。

 納棺の際、義母の希望で、体の上に成人式で着た振り袖が掛けられた。最前列に座っていた僕はひざ立ちになって、棺(ひつぎ)の中に上半身を入れ、淳子さんの顔を見つめた。

 死に顔も美人だ。

 顔を近づけ、唇にキスをした。そして顔をすり合わせた。

 氷のように冷たかった。

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 淳子さんは生前によく「仏壇に写真を飾られて線香でいぶされるなんて、燻製(くんせい)じゃあるまいし冗談じゃないわよね」と笑っていた。だから葬儀は本人はもちろん、僕も望まなかった。

 しかし義父に「何もしないの…

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