女性の叫び声が響く。

 「どうしてあんたそんなにひどいの! やだこんな人! なんであんなにひどいの! なんで私にばかり恥をかかすの!」

 真っ黒な画面には、その言葉の字幕が浮き上がるだけ。やがて画面に映像が現れ、家族の23年間がドキュメンタリーとして映し出されていく。カメラを構えたのは、統合失調症とのちに診断される女性の、弟だ。

 突如叫びだすなどの特異な症状が姉に表れたのに、両親は病院に行かせない。弟は、そんな家族にカメラを向け、撮りためた映像を映画にした。

写真・図版
藤野知明監督の姉。「どうすればよかったか?」から©2024動画工房ぞうしま

 各地の映画祭で上映され、大きな話題となったそれは、衝撃的な内容だった。統合失調症の人には会ったこともあるし、家に閉じ込められた人のうわさも時々聞く。けれど、家の中で症状が悪化している様子を見たのは、初めてだった。精神科医の星野概念さんが「精神的な危機状態が続く人とその家族の20年以上にわたる映像は、他に例がないのではないか。極めて稀有(けう)な記録だ」と語るほどの101分――。

 12月7日に東京や大阪などで公開されるタイトルは「どうすればよかったか?」。弟の率直な逡巡(しゅんじゅん)の思い、そして観客に問いかけたい思いを込めたという。

 監督となった弟の名前は藤野知明さん。札幌で生まれ育ち、医師で研究者の両親と8歳上の姉と暮らしていた。16歳だった1983年、医学部に通っていた姉が家の中で支離滅裂なことを叫びだし、救急車で運ばれたのが始まりだった。

「姉が精神障害なら、お前もか」

 なぜか両親は姉をすぐに病院…

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