南方新社の向原祥隆社長=鹿児島市

 本が売れず街の書店が減り続けるなか、鹿児島市の出版社・南方新社が今年、設立30年を迎えた。鹿児島の自然や歴史、文化などをテーマにした本を中心に、出版数は約650点に上る。「生きるうえで必要な知識を」という原点を忘れず本作りを続ける。(宮田富士男)

 鹿児島市中心部から車で約20分。雑木林に隣接する敷地に立つ木造の民家が社屋だ。玄関には「南方新社」の大きな看板。数万冊もの在庫を保管するため広さを優先して移転したという。緑に囲まれた静かな環境で社長の向原祥隆さん(67)ら7人が本作りに取り組んでいる。

 向原さんは京都大学を卒業後、就職情報誌を柱とする東京の広告出版社に就職。13年勤めたが仕事や東京での暮らしに疲れ切って退職。35歳で故郷・鹿児島に戻った。1年ほどのんびりしようと、本を読んで過ごすことにした。読んでいるうちに鹿児島のことを知らないと気づいた。もっと知りたいと思って出版社を始めることにした。

 出版した約650点のうち最も多いのが奄美関連の本で、歴史・自然・風俗などをテーマにした約200冊を出した。奄美史研究の基礎史料になっている本もある。また、鹿児島市の同業者による奄美の料理本で絶版になっていた名著を復刻し、「新版 シマ ヌ ジュウリ」(「シマの料理」という意味、藤井つゆ著)を出版した。「東京で出版した図鑑には鹿児島の動植物は載っていない」とみて、鹿児島で見かける動植物を網羅した図鑑も数多く出している。原発の危険性を指摘した「原発から風が吹く」(橋爪健郎編著)なども出している。

 印象に残る本として、元毎日…

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