新鮮なアジを刺し身ではなく、あえてフライに――。アジの水揚げ量で日本一を誇る長崎県松浦市が「アジフライの聖地」を宣言し、知名度を上げている。
観光客数もふるさと納税の寄付額も右肩上がりで、アジフライの経済波及効果は年間約30億円に上る。宣言から5年あまりを経て、過疎に悩む地域は、なぜ「聖地」になれたのか。
福岡市中心部から車で2時間弱。西九州自動車道の松浦インターチェンジ(IC)を降りると、海沿いの静かな街に「アジフライの聖地」と書かれたのぼり旗がはためく。
アジフライをかたどったモニュメントが点在し、松浦鉄道にはつり革がアジフライの食品サンプルになっている車両もある。
松浦市役所近くの「居酒屋 雅(みやび)」に向かった。のれんをくぐると、大きないけすに40~50匹のアジが泳いでいた。
女将(おかみ)の溝上啓子さん(73)が網で1匹すくい上げると、ピチピチと尻尾で水をはじく。厨房(ちゅうぼう)ですぐにさばき、薄めの衣をまとわせてサッと揚げる。5分ほどでアジフライが出来上がった。
ノンフローズン or ワンフローズン
市が「聖地」を宣言をした2019年に定めた「アジフライ憲章」には、ノンフローズン(水揚げ後に1度も冷凍しない)、またはワンフローズン(パン粉をつけてから1度だけ冷凍)で提供することをうたう。冷凍を繰り返すと、臭みの原因になり、うまみも損ないやすいからだ。
「雅」では、ノンフローズンならではのフワフワのやわらかい食感が味わえる。そのままでも、レモンをかけても、自家製タルタルソースを付けても、アジのうまみが口の中に広がる。
「松浦のアジフライはどこの店もおいしいけど、うちのはそれよりちょっとおいしいね」とほほ笑む溝上さん。
06年に開店した当初は、アジの刺し身が人気で、アジフライは日陰の存在。19年に聖地を宣言したことで注文が増えた。しかし、コロナ禍になり、客足が遠のく苦しい時期があった。
「アジフライを続けていたら客が戻ってくると信じていた。根気よくやってきてよかった」としみじみ語る。
アジフライの聖地として好調な松浦市。この後、市職員がアジフライの「味」について意外な課題を投げかけます。記事後半では、「からあげの聖地」大分県中津市との違いを紹介し、専門家が「ご当地グルメの明暗を分けるポイント」を語ります。
アジを食べに来てほしい時期は?
「聖地化は大成功ですよ」…