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「賃金制度や人事制度は、常に変化していくものです。この記事にあるような変化が、働き方をどのように変えるのかは、今後の運用をみていくことが肝要です」
2月21日配信の記事「変わりゆく銀行の古い人事慣習 年功序列廃止、20代で年収2千万も」に、労働経済学が専門で立教大学教授の首藤若菜さんは、こうコメントした。
記事では、長く年功序列が続いてきたメガバンクで、大卒初任給の引き上げや経験年数にとらわれない抜擢(ばってき)など、若手の待遇改善を進める賃金・人事制度の抜本的な見直しが盛んなことを伝えた。一方で、これまで処遇が下げられていた中高年の従業員に対しても、働きたい部署を希望できる制度の導入など慣例が見直されているケースも紹介。働きがいと働きやすさを高める動きの背景には、人材獲得競争への危機感があるという。
首藤さんは、こうした初任給引き上げの動きはメガバンクに限らず報じられているとした上で、一般論として「その原資がどこからきたのか」が気になると指摘した。「初任給30万円超え」は一見、企業の利益が若年層に還元された印象を受けるが、「それは本当なのでしょうか」。労働市場が逼迫(ひっぱく)する中、初任給の引き上げ競争は激しくなっており、「企業が様々な工夫をすることは容易に想像できるため」だ。たとえば、手当の一部を廃止したり、固定的に支払われてきたボーナスをやめたり、社宅をなくしたりして、それを原資に初任給を上げるといった例は「私が知っているだけでもいくつもあります」という。
首藤さんは、社宅提供などの福利厚生を廃止し、その分を基本給として払う流れは以前から進んでおり、それ自体は多様な生き方を保障するうえで「望ましい」としつつも、「手当分が基本給に組み込まれたのであれば、労働者の取り分は、実はあまり変化していないとも言えます」「若年層の賃金を上げる分、中高年層の賃金を下げていれば、初任給は上がったものの、入社後の賃金カーブは上がらなくなったと言えます」と指摘。その上で、こうコメントを締めくくった。
「要するに、誰かの給与が増えたように見えても、実は総額の人件費はほとんど変わっていない場合があります。何かが増えれば、何かが減っている可能性を考えてみることも大切です」
この記事や、首藤さんのコメント全文はこちらから(http://t.asahi.com/woq5)。同じ記事には、俳人で大阪公立大学教授の杉田菜穂さんもコメントしています。
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