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天空の花畑。冬は斜面が茶色い=2024年12月21日午前9時20分、香川県三豊市詫間町志々島、内海日和撮影
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 斜面一面に咲き誇る芝桜、ネモフィラ、キンセンカ――。花越しには瀬戸内海が広がる「天空の花畑」。

 花卉(かき)栽培がさかんだった香川県の離島・志々島(三豊市)を花の島として復活させた高島孝子さん(90)と、その息子夫婦の直宏さん(63)、千鶴さん(60)の家族の物語を今年4月に取材した。春以外の作業が大変だという話を聞き、「今度は手伝いに来ますね」と言い、島を後にした。

  • 瀬戸内に浮かぶ「天空の花畑」 家族3人の思いで復活させた島の景色

 12月下旬、有言実行する時が来た。午前9時前、志々島に渡る船内に直宏さんと千鶴さんの姿があった。多度津町に住む2人は週末だけ島で作業している。船は3人だけを乗せた貸し切り状態で、出航した。春は船が増便され、船内もぎゅうぎゅう詰めだったのに。千鶴さんは「春以外はいつも私たちだけだよ」と笑っていた。

 急な坂道を上り花畑にたどりつくと、驚いた。茶色い。春はピンクや青が斜面を埋め尽くしていたのがうそのようだった。これが冬の「天空の花畑」なのか。

 その日、記者は芝桜周辺の雑草抜きを任された。鎌を片手に黙々と雑草を抜いていく。数時間が過ぎたのに、芝桜の花畑の100分の1ほどしか進めなかった。かがんでいたからか、腰が痛いし、鎌を握る手も力が入っていたようで痛い。

 聞けば、90歳になった孝子さんは今でも現役で、急な斜面を登って作業しているという。こんな地道な作業を3人だけでやっているなんてすごすぎる。直宏さんは「本当に2カ月だけのため」と苦笑い。千鶴さんは「でも、花が咲くとやっぱりうれしいんよね」と言っていた。

 2021年にクラウドファンディングで寄付を募り、設置を進めていたトイレが完成していた。重機が入れないため、タンクを入れる穴をスコップで掘ったらしい。

 今年は作業のペースが遅れていて、芝桜を成長させるために、多度津町の自宅近くにビニールハウスも作ったと言っていた。今後は、イベントの企画や雨宿りができる場所の設置を構想しているという。「こうやってぐだぐだ考えている時間が一番楽しい」と千鶴さん。天空の花畑は、まだまだ進化を続けるようだ。

 年が明け、数カ月もすればあっという間に春が来る。冬の花畑の姿を知ったから、花にかける手間の多さを知ったから、次の春はもっときれいに見える気がしている。春が来るのが、待ち遠しい。

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