「環境先進地」の欧州が、再生可能エネルギーのてこ入れを迫られている。加盟国による企業への補助を原則禁止してきた欧州連合(EU)はルールの緩和に踏み切り、英国では公営エネルギー企業が誕生。国家と企業の関係が問い直されている。
スイスの太陽光電池メーカー「マイヤー・バーガー」は4月、ドイツにある太陽光パネル組み立て工場の生産を打ち切った。その一方、6月に米アリゾナ州で新工場を稼働させた。
「欧州が我々の産業を守らないなら、米国に移るしかない。米国こそ公平な競争ができる場所だ」
最高経営責任者(CEO)だったグンター・エアフルトは8月の取材にそう嘆いた。
欧州の太陽光発電メーカーは苦境に立たされている。補助金などに後押しされた中国の過剰生産に対し、米国やインドが関税措置を強めた結果、無関税のEUに中国製品が大量に流入。欧州での太陽光パネルの価格はこの2年間で3分の1に下がった。
欧州の太陽光パネルメーカーなどでつくる欧州太陽光発電製造評議会(ESMC)によると、欧州のパネル組み立て工場は閉鎖が相次ぎ、昨年秋に比べて生産能力は半減した。「欧州メーカーは存亡の危機だ」とESMC事務局長のヨハン・リンダールは訴える。
マイヤー・バーガーが米国を選んだのは、エネルギー安全保障と気候変動対策につながる産業を補助金や税額控除で支援する「インフレ抑制法」の影響も大きい。バイデン政権のもとで2022年に成立し、欧州からも環境関連の「グリーン投資」が流れ込んだ。
米中などによる補助金を使った強力な産業政策の競い合いに、EUは危機感を強める。
50年までの温室効果ガス排…