夏と言えば、怪談の季節。昔から、集まった人が怖い話を披露し合う「百物語」などの文化もあります。落語家などではない、話すことの素人が、本を読むのではなく、あらすじを覚えて話すわけで、考えてみると不思議ですよね。ということで、子どもの頃に聞いてしまった怖い話の「舞台」に、よせばいいのに、行ってきました。
1980年代半ば、東京で小学生たちが夜、夕涼み会を開き、親たちと近くの空き地に集まって「怖い話」をしていた。「トイレの花子さん」「口裂け女」……。やがて一人の母親が「『幽霊滝の伝説』って話、知ってる?」と語り始めた。
昔、麻を取る仕事をしていた女性たちが夜、怪談話をしていた。そのうち、夜道を1人で幽霊滝へ行き、滝の近くのお社のさい銭箱を取ってこられた度胸ある者には、褒美に今日みんなが取った麻を全部あげよう、という話になった。お勝という若い女性が名乗りを上げ、2歳になる息子を背負って滝へ向かった。さい銭箱に手を伸ばすと、お勝を呼ぶ何者かの声がした。だが、お勝はひるむことなく、さい銭箱を抱えて走った。
戻ったお勝は女性たちの称賛を浴びた。だが、お勝の背中の子を気遣った高齢の女性が、血に気づいた。子供の頭部が、なくなっていたのだ。
この話を語ったのは記者の母親だった。別の日、「耳なし芳一」も語ってくれた。「怪談と言って、小泉八雲という人が本に書いたんだ」と言っていた。
幽霊滝が実在すると知って
それから40年近く経った。幽霊滝が実在すると知った記者は、鳥取県日野町の山中にある滝山神社の龍王滝、通称「幽霊滝」を目指した。広い駐車場に着いたが、車は1台もとまっていない。通りかかる車もない。もうじき日暮れだ。鳥居の向こうで、並び立つ巨木が暗がりを作っている。参道のこま犬はこけむして顔つきもわからない。
「幽霊滝の伝説」が書かれた背景は? 幽霊が飴を買う怪談は、なぜ色んな場所にある? 謎を解くために松江、京都を訪ねました。
長い参道を登り切った先に…