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素振りもただ振るだけでなく、片目に目隠しをして、球を正面から捉える工夫が=2025年1月23日午後5時34分、広島県東広島市黒瀬町大多田、平井茂雄撮影
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 全体練習が1日50分の野球部があると聞き、武田(広島)を訪ねました。

 象徴的なシーンがありました。グラウンドで全体練習開始の数分前から始まった内野ノック。校舎から走って来た選手が守備位置近くに荷物を置き、そのままノックに加わりました。普通ならベンチなどに荷物を置き、着替え、ウォーミングアップなどを経てからノックに臨みますが、武田にはそれがありません。坂口ソラス主将(2年)は「学校に行く前に準備をしていて、授業が終わったらすぐに練習できるようにしている」と話します。

 小学生のころ、ランドセルを放り出して夢中でボールを追っていた頃を思い出しました。

 武田の全体練習は夕方のわずか50分ほど。午前7時15分から同8時まで朝練がありますが、その時間は個別練習に充てています。33人の部員のうち、28人の選手のほとんどは寮生で、午後6時に夕食、同7時から2時間は自習時間と決められているため、放課後の練習時間が短くなってしまうそうです。

 そのため、様々な工夫がありました。練習前の数分間のノックもその一つ。また、練習ではほとんどの選手がジャージー姿です。朝、登校時の服装で練習することで、着替える時間を短縮しています。ただ、岡崎雄介監督(43)は「効率を考えすぎるのも良くない。大事なのは結果的に効率的になっていること」と話します。やみくもに時間を短くし、詰め込むのではなく、より深く計画を立てて、着実に積み重ねていくことを意識しているそうです。

 その中でも、力を入れているのが「フィジカル革命」を合言葉にした筋力トレーニングです。筋肉の量や関節の可動域の広さなどを重視して鍛えています。全員が集まる貴重な時間は、守備の連係プレーなどを想像しますが、「投、走、打の力を上げることによって長く野球ができる。まずそこを鍛えようと。そうすると筋量がいる、体重がいる、柔軟性がいる、となってフィジカルを重視するようになった」と岡崎監督。また、「心技体ではなく体技心だと思っている。体がないと技術的にやりたいことができない。技術があれば心もついてくる、と思っている」。

 ベースには「大学まで野球を続けることを前提に、7年間のうちの3年で下地をしっかりつくる」という考え方があります。

 取材した日は打撃練習班と筋トレ班に分かれて練習。筋トレ班は全員が集まったと思ったら、かけ声とともに、すぐに筋トレが始まりました。鍛える部位によって2班に分かれ、数十秒ごとにカウントダウンしながら使う器具を交代。目まぐるしく進んでいきます。

 器具も、バーベルの持ち手部分が真っすぐではなく、回転するようになっているなど、ちょっと変わっています。センサーで持ち上げた速さや高さなどを記録できるものも。「もっといける!」「根性見せろ!」。選手たちの元気なかけ声とともに、練習はあっという間に終わりました。

 筋力量などのデータは月に2回、測定し、それぞれの目標を決めていくそう。選手たちの数値は全国でも上位のレベルです。

 昨秋の大会は、目標数値を達成した選手だけをベンチ入りさせました。結果は初戦敗退に終わりましたが、監督は「フィジカルはセンスじゃなく、コツコツ積み上げられるかどうか。そこを問いたかった」とその意図を語ります。

 課題はやはり、練習時間の短さによる経験不足。そこは、同時に3カ所で打撃練習をして「1対1」の練習を増やすなどしたり、守備練習も併殺や挟殺、タッチプレーなど、あらゆる守備パターンを経験できる走者一、二塁での場面に特化したりして補おうとしています。

 練習時間の短さについて、坂口主将は「日本で一番考えて練習している自信はある。時間が短いからこそ、もっと野球がやりたい、もっと野球を深く知りたいという思いが出てくる」と話します。

 短いからこそ、考えて工夫し、真剣に取り組む。こんなやり方もあったのか、と「目から鱗(うろこ)」でした。

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