芥川賞と直木賞は、小説家にとって別格の文学賞だ。賞の権威以上に、その知名度が作家の人生を変えることがある。村山由佳さんの新刊「PRIZE―プライズ―」(文芸春秋)は、表現者の尽きない承認欲求を描いた長編小説。直木賞作家がその選考の裏側を見せながら、創作という行為の本質に迫っていく。
天羽(あもう)カインはライトノベルの新人賞からデビューし、本を出せばベストセラーという人気作家だ。書店員の投票で選ばれる本屋大賞を受賞するも、作家が選ぶ文学賞には縁が無い。あるときは「人間が書けていない」と言われ、別の作品では「人間にはもう少しわからなさが欲しい」と否定され、落選を重ねてきた。これらの講評は選考会の決まり文句ではあるが、言われた方は納得がいかない。選考委員に募らせた憎悪は、編集者への八つ当たりとなり、評価されない苦しさと絶望が激しい怒りとなって噴き出す。
若手編集者と、旧知の編集長の視点も交え、作家が編集者と共闘しながら物語を生み出していく過程で、1行の完成度を求める貪欲(どんよく)さが美しくも恐ろしく描かれる。
新人作家の御法度に、初版部数や原稿料といったお金の話、実在の作家や編集者を想起させるエピソードもふんだんで、出版業界をのぞき見するような楽しさもある。
候補作を選ぶ予備選考の流れ…