
伊藤匠叡王「趣味を作る必要ない」鬼の棲家へ 昇級インタビュー【第83期将棋名人戦・B級2組順位戦】=北野新太撮影
将棋の第83期名人戦・B級2組順位戦(朝日新聞社、毎日新聞社主催)が5日、東西の将棋会館で指され、伊藤匠叡王(22)が丸山忠久九段(54)に勝ち、今期8勝2敗としてB級1組への昇級を決めた。
伊藤叡王は、他局の結果に関わらずに自らが勝てば昇級、敗れれば昇級を逸する「自力」の状況で丸山九段戦に臨んだ。
今期、銀河戦と達人戦を制すなど活躍を続ける角換わりのスペシャリストとの角換わり戦。千日手の変化も生じるなど難解な戦いとなったが、伊藤叡王が終盤に抜け出して大きな1勝を挙げ、唯一残っていた昇級枠を手中に収めた。既に9回戦で服部慎一郎七段(26)と青嶋未来七段(30)が昇級を決めていた。
第80期での順位戦デビューから4期で3度の昇級となった。「大きなチャンスを逃すと上を目指せなくなる可能性もあるので、今はホッとしています」。C級1組で1期停滞したことも含め、藤井聡太名人・竜王(22)と同じ速度で順位戦を駆け上がっている。「どの期もギリギリのレースだったので実力が伴っている感覚はないですけど、上のクラスで戦うことで成長できると思っています」。来期は「鬼の棲家(すみか)」と呼ばれるB級1組での戦いになるが「やるからにはA級を目指したい」と力強く言った。A級はタイトルと並んで少年期からの夢でもある。
ようやく重圧から解放された今、何をしたいか、と問うと、伊藤叡王らしい言葉が返ってきた。「特に……。今は趣味を作る必要がないんです。将棋を指しているだけで十分に満たされるので。気分転換は詰将棋です」。将棋の神に愛されながら、将棋という道を疾走している青年が昇級の夜に見せたのは、やはり求道者としての顔だった。