軽やかでわかりやすい。いや、深くてむずかしい。ときに意味不明。作品によって、読むタイミングによって、表情が変化する。13日に亡くなった谷川俊太郎さんは、誰よりも詩人でありながら、誰よりも詩の枠を飛び越えてきた。
- 詩人の谷川俊太郎さん死去 92歳 「生きる」「二十億光年の孤独」
高校卒業後に詩人としてデビューした後、絵本も手がけ、漫画「ピーナッツ」や絵本「スイミー」の翻訳でも知られる。エッセーも書けば、作詞もする。朗読ライブにも出る。詩は教科書に載り、合唱曲になり、テレビCMに使われた。
ポピュラリティーのゆえんは、人が一生涯をかけてもつかむことができないテーマを、やさしい言葉で表現しつづけてきたことにあるだろう。
〈絶望していると君は言う/だが君は生きている/絶望が終点ではないと/君のいのちは知っているから〉(「絶望」から)
生きること、愛すること、幸せでいること、そして、死ぬこと。結論を示すことはしない。啓蒙(けいもう)する気は少しもない。
「天才」「巨人」と崇拝されることを、自ら拒むやんちゃな心をいつまでも持ち続けた。
2023~24年にかけてロングインタビューをした。自身の詩を朗読する動画を撮りたいとお願いすると、詩の選定で一つだけNGが出た。「『なんでもおまんこ』はダメ」。いまの時代、このタイトルでは風あたりが強いだろう。そう思っていたら、続けてこう言った。「この年になると元気に読めないから」
ユーモアと、軽やかさと、エロス。谷川さんの本質は、ここにある。
作品への執着もなかった。「だって言葉って、万人共有のものでしょう。はじめっから自分のものとして抱え込むのは諦めてるわけですよ」
最後に会ったのは、亡くなる…