尖閣諸島。手前から南小島、北小島、魚釣島=2013年、沖縄県石垣市
  • 写真・図版
  • 写真・図版

 尖閣諸島周辺の日本の排他的経済水域(EEZ)内に中国が設置したブイは、昨年7月の発見から約10カ月経っても放置されたままだ。日本は中国に即時撤去を要求しているが、中国側は周辺海域を自国のEEZと主張し応じていない。政府は自身の手による撤去は「法的グレーゾーン」(外務省幹部)だと頭を悩ませる。

 中国のブイが発見されたのは、尖閣諸島北西の海域。政府関係者によると、日本がEEZ境界として設定する日中中間線から500メートルほど日本側の距離にある。黄色の直径約10メートル大で、気象観測機器とみられるものを搭載。昨年7月に海上保安庁が確認し、付近を航行する船舶の安全確保のため航行警報が出された。

 中国のブイ設置は、周辺海域の管轄権を既成事実化する狙いがあるとみられている。日本政府は「我が国のEEZで同意なく構築物を設置することは、国連海洋法条約(UNCLOS)上の規定に反する」(松野博一官房長官、当時)と主張。昨年11月の日中首脳会談でも中国側に即時撤去を求めたが、中国は応じていない。

 中国のブイの確認は今回が初めてではない。13年に中間線の中国側、18年は日本側で見つかった。今年1月も、付近のEEZ内で漂流するブイを海保が発見。ブイは上下反転し転覆した状態で、数日後に海上から消え、沈んだと推測されるという。

 昨年7月確認のブイが設置されたままの状況に、与野党から「様子見外交」などと政府対応を批判する声が上がる。

 だが、政府は「(国際法上の)明確な規定、実績がない」(上川陽子外相)との理由で、撤去には慎重だ。沿岸国はUNCLOSに基づき、沿岸から200カイリ(約370キロ)までの範囲をEEZに設定でき、天然資源を優先的に探査したり、開発したりする権利がある。「海洋の科学的調査」には沿岸国の同意が必要との規定があり、日本にとって事前協議のなかった中国のブイ設置は国際法違反の行為だ。

 ただし、問題が複雑なのは、日中間の海域は200カイリの範囲が重なり、EEZ境界線は未画定であることだ。日本は日中双方から等距離の中間線を境界とするが、中国側は認めていない。さらに、UNCLOSには今回のブイ設置のような違反国に対し関係国がどのような物理的措置を取ることが許されるか明確な規定がなく、判例の蓄積もない。外務省幹部は「どこまで日本がやって良いのか、法的にはグレーゾーンだ」と語る。海保関係者も「中国は日本の出方を見ているのだろう。例えば10個置かれてそれを放置するのは主権国家ではないが、では何個から撤去するのかが難しいところだ」と話す。

 海洋法に詳しい坂元茂樹・神…

共有