「これでバイバイだね。みんな、ごめんね」

 東京都杉並区の小野はる子さん(70)は、2021年夏、両親が暮らした福島県いわき市の家の庭をゆっくりと歩きながら、木々の根元に線香を置いて回った。

 両親は亡くなり、誰も住む予定はない。後ろ髪をひかれながらも、土地を手放すことを決めた。数日後には伐採される。

「お父さんが愛した庭だから」

 父の元治さんは炭鉱会社に勤め、社宅暮らしが長かった。自分の庭がほしいと40年以上前、祖父の持っていた土地に家を建てた。家50坪に対し、庭は150坪。植木屋と相談しながら、シダレザクラやヤマモモ、ウメなどの植木と、スズランやシュウメイギク、シャクヤクなどを植えた。

 狭心症の持病があり、医師から力仕事を避けるように言われていた。草むしりをしようとかがんだだけで、母が制止。庭の手入れは母が担った。

花を咲かせたシダレザクラ(右)の手前で、ベニシダレモミジの赤い葉が広がった様子=2015年春、福島県いわき市、小野はる子さん提供

 春になると、ベニシダレモミジの新芽が出て、鮮やかな赤い葉を広げた。同時に、隣のシダレザクラがピンク色の花を咲かせた。「この赤とピンクが、きれいなんだよ」。父はその間に立って景色を眺めるのが好きだった。

「何とか残したい」 引き取り手を探し

 仕事のストレスも漏らさない…

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