一瞬で消えてしまう不安定な素粒子「ミューオン」を光速の4%まで加速させることに、日本の研究チームが世界で初めて成功した。「夢のマシン」とされるミューオン衝突加速器や、微細な世界をのぞくミューオン顕微鏡の開発につながる可能性がある。
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ミューオンは、電子と似た性質を持つ素粒子の一種。人工的につくれるが、向きや速さが不ぞろいで扱いにくいため、加速器の開発から約100年たつが、ミューオン加速器は存在していない。
懐中電灯からレーザー光線に
高エネルギー加速器研究機構(KEK)などの研究チームは、バラバラのミューオンをいったんほぼ停止させ、均一な状態にしてから一斉に加速するアイデアを考えた。例えるなら、バラバラのミューオンは、遠くで明るさが広がってしまう懐中電灯の光。それをレーザー光線のまっすぐ整ったビームにするような技術だ。
茨城県東海村にあるJ(ジェイ)-PARC(パーク)(大強度陽子加速器施設)でミューオンをまず生成。それをシリカエアロゲルというスポンジのような素材にぶつけて動きを止めた後、電気の力で加速させることに成功した。
難関は、寿命の短さだった。ミューオンは寿命が100万分の2秒しかなく、一瞬で壊れる。壊れる心配がない電子や陽子と違い、ミューオンの加速が難しい最大の理由だ。生き残っている間に加速まで終えなければいけない。
この早業を、全長3メートルほどの高周波加速装置を開発し、実現した。まばたきよりも短い時間で、粒子は秒速6キロから秒速1万2千キロまで加速。まだ光速の4%だが、今後は4段階で加速させる装置を開発し、光速の94%まで高める。
KEKの三部(みべ)勉教授(素粒子実験)は「提案からここまで15年かかったので感慨もひとしお。世界初のミューオン加速器への第一歩を踏み出せ、今年は『ミューオン加速元年』と言える」と手応えを語った。
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