理科の授業で、画面の向こうの生徒たちにリアクションを求める荒川英治先生

 不登校の中学生に双方向オンライン授業を行う千葉県教育委員会の「エデュオプちば」が好評だ。6月の開始から3カ月で登録者は400人を超え、今も増え続けている。主要5教科の授業に1日平均約100人が参加。夏休みには音楽や美術、食育などの授業や高校説明会も開催した。授業を通じてコミュニケーション力向上を図る試みは珍しいという。

 授業は学年別で、週5日。1コマ30分で午前2コマ、午後1~2コマの中に5教科が配分されている。生徒は時間割に沿って「教室」に入り、授業に参加する。

 授業は県総合教育センター(千葉市美浜区)に設けられたブース3カ所から配信される。ベテランぞろいの各教科の担当ら教員6人には、昨年秋に県教育委員会が声を掛けた。ICT機器の扱いが苦手な人は慣れた本庁職員が全面サポートした。

 金曜の午後1時過ぎ、荒川英治先生(60)は、○×を出す小道具を手にブースに入り、1年生の理科の授業を始めた。生徒側はカメラもマイクもオフで、パソコン画面で見えるのは受講者のハンドルネームだけ。それでも、6月から陽気に授業を続けてきた荒川さんには、約30人の生徒一人ひとりの性格や学習進度がつかめてきた。

 この日はまず前回の「物質の比重」を復習。前回と数字を変えた復習問題は、1問ずつ「できた人!」とリアクションを求める。最初は反応が少ない。出来ない子がいるようだ。「1センチ角のさいころ何個分かで考えるんだよ」とヒントを出すと、ハートマークの反応がどっと来た。笑顔の荒川さんがカメラに向かって小道具の「○」を出すと、生徒もクラッカーマークの連打で応えた。

 荒川さんは高校の生物教員で、今春まで管理職だった。久しぶりに生徒を相手にする喜びを感じる一方、対面でない授業は初めてで、専門外の物理や地学も教えるのが少し不安だったという。

 理科を嫌いにならないように、でも表面的な話にはしたくない。30分の授業の準備に2時間以上かけ、食いつきやすさを工夫する。でも学力の定着より、1回でもリアクションできることがまず目標だという。

 社会の先生が「今日は何の日?」という問いかけから授業を始めるのを見て、気づいた。大切なのは画面の向こうの生徒たちとその瞬間を共有していること。「勉強を通じてコミュニケーション力を高めているつもり。みんな知識欲があるし、だれかとつながっていたいんだと実感します」

 今ではチャットで質問してくる子も現れた。「ナシの中に『石細胞』があると雑談で話したら、その後『ルーペでみたけどわからない』って。こういう一歩を踏み出せる勇気を持てるように、背中を押したいですね」(織井優佳)

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