自宅の書斎で机に向かう、生活研究家の阿部絢子さん

 若いうちは自由気ままに生きるのもいい。でも、年をとって体が動かなくなったら、同年代の友人たちに先立たれてしまったら……。いつか来るかもしれないひとりぼっちの生活を想像すると、不安が募ってしまう。どんな心構えでいればいいのか。「老いのシンプルひとり暮らし」などの著書がある阿部絢子さん(79)に聞いた。

 ――年をとるとできることも限られてきたり、身近な人を亡くしたりして、寂しくなったという話をよく聞きます。私は八つ年上の夫と2人暮らし。夫が先に亡くなったらひとりぼっちになるのでは、と不安でたまりません。

 そんなのわからないわよ。どうして決めちゃうの。

 それに、結婚してもしなくても、人間「一人」であることには変わりないんじゃない? 人は一人で生まれて、一人で死ぬ。死ぬときに誰かが一緒に死んでくれるわけじゃない。

 それなのに、何かにすがったり頼ったりするから、なくなったときに寂しさ、つらさがドドッと来るのでしょう。

 ――阿部さんは寂しさを感じたことは。

 人生で一番寂しかったのは、大学入学で親元を離れて下宿に入ったとき。送ってくれた家族が帰り、一人になったときに、ずーんときた。「一人とはこういうことなんだ」「何でも自分でやっていかなきゃいけないんだ」と思った。

 もう一つは32歳ぐらいのとき。アメリカにいる友人を訪ねていくと、予定の飛行機が落雷で大幅に遅れ、飛び立ったはいいけど、目的地までたどり着けないことがわかった。どうしよう、どうしようって真っ青になっちゃって。空の上の飛行機の中で「この地球上に私は一人なんだ」と強く感じた。そこから肝が据わったと思います。

 ――それからは寂しいと思うことは。

 全くないですね。

「世間が言ってる」には耳を貸さない

 ――ずっと独身とのことですが、結婚したいと思ったことは。

 「この人と結婚したい」はありましたよ。「この人と一緒に生きたい」というのはあった。誰でもいいから、何が何でも、というのはない。

 自分の進んでいる道の途中に結婚という橋がかかっていれば渡ればいいと思うけど、結婚は越えなきゃいけないハードルではない。

 別に結婚はしてもしなくてもいいと思うし、いくつになっても「いいな」と思う人がいれば、形にこだわらなくても、隣に住んだり親しく行き来したりすればいいんじゃないかな、と思う。「~しなければいけない」というような考えは、私の中には一切ないんです。

 ――なるほど。私はまさに「とにかく結婚しなきゃ」という気持ちがあったように思います。両親や周囲から「結婚しなさい」と言われることはありませんでしたか。

 全然。「こういう人がいるわよ」と言われて、しょうがないなと思いながらお見合いすることはあったけど、それぐらいでしょうか。

 言われていたのかもしれないけど、私、あんまり聞かないから。この人に言っても仕方ない、という感じがあったかもしれない。

 でも、人生に正解はないわけだから。人生は正解がないから面白いのであって、正解があったら気持ちが悪くて嫌よ。「世間が言ってる」とか、「誰それが言ってる」とか、そういうことには一切耳を貸さない。

記事の後半では、阿部さんが「人生の最終ラウンド」との向き合い方について語ります。

 ――日々を楽しく過ごすため…

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