ロシアから見える世界

 みなさん、こんにちは。今回は少し趣向を変えて、最近私自身の身に降りかかった出来事を紹介します。

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 昨年11月24日のことでした。私のスマホに、一通のメールが届きました。発信元は、ロシアの銀行です。タイトルに「Important information(重要な情報)」とあります。いつもなら「また広告か新しいアプリの案内かな」と思って、読まずにゴミ箱行きになるのですが、このときは、なぜかなんとなく気になって開いてみることにしたのです。

 読み進めて、驚きました。ざっと以下のような内容が記されていたのです。

 ・お客様と銀行の間で2005年2月18日付で締結された契約の終了をお知らせします。

 ・これに伴い、あなたの銀行カードは失効し、口座は閉鎖されます。

 ・つきましては60日以内に、預金を引き出すか他行に送金するなどして、当行の口座残高をゼロにしてください。

制裁の対象ではないのに何故?

 「聞いてないよ~」

 私は05年にモスクワに特派員として赴任した際に、この銀行に口座を開きました。メールにある2月18日というのが、そのときの日付なのでしょう。

 私はそれ以来ずっと、この口座を使っていました。17年に2回目のモスクワ赴任を終えたときも口座はそのままにして、たいした額ではありませんが、米ドルをいくらか残しておきました。

写真・図版
私が使っているロシアの銀行のホームページには、「これまでのご愛顧に感謝します」というあいさつと、口座を閉鎖する方法が書かれたページへのリンクが表示される

 ロシア出張の際に多額の現金を持っていく必要が無いという実利的な理由もありますが、それ以上にロシアとつながる縁を残しておきたいという気持ちがあったのです。ロシアに行くとき以外はほったらかしです。

 ロシアがウクライナ侵攻を始めて間もない一昨年3月、欧州連合(EU)は米英などとの合意に基づいて、ロシアの7銀行を、世界の金融機関の国外送金業務を担う国際銀行間通信協会(SWIFT、スウィフト)から切り離すことを決めました。対ロ制裁の一環です。

  • EU、ロシア7銀行をSWIFTから排除へ 最大手は対象外、異論も

 このとき、私の銀行は制裁対象から外れていました。この銀行は米国系で、私が赴任していたときには欧米の外交官らも多く使っていました。ですからその後も、欧米からの制裁対象になる可能性は低いだろうと思い、私はすっかり油断していたのです。

 メールに驚いてニュースを調べると、やはり私の銀行が制裁対象になったわけではありません。ただ、ロシアからの事業撤退を決めたということでした。それにしても有無を言わせず「60日以内に口座の残高をゼロにしろ」というのも、日本の常識に慣れた身からすれば、乱暴な話です。

 ネットバンキングで日本に送金すれば問題解決、と思うかもしれませんが、そう簡単ではありません。私はこの後、難題に次ぐ難題に見舞われました。

最大の難関「送金できない」

 第1の問題として、そもそも…

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