会計検査院は15日、マイナンバーシステムで、児童手当や介護保険申請などの手続きを簡略化する機能の活用状況について、全自治体を対象に調査した結果を公表した。2022年度に半数以上の自治体が活用したのは1258機能のうち年金申請などの33機能(3%)で、税金減免などに関する485機能(39%)は全く使われていなかった。
本来使えるはずのデジタル手続きを住民が使えないケースが出ている。政府はマイナシステムで「国民の利便性向上」と「行政の効率化」を図るとしてきたが、実態が伴わず、自治体の現場の実態と乖離(かいり)していることが明らかになった格好で、検査院は司令塔のデジタル庁や関連省庁に改善を求めた。
調査では、全国約1800自治体を対象に、1258機能の利用状況を確認した。それによると、半数以上の自治体が利用したのは33機能、1割未満の自治体しか使っていないのは649機能。全体の97%の機能が半数未満の自治体でしか利用されておらず、485機能は全く使われていなかった。
神奈川、愛知、兵庫、広島、福岡などの11県とその全市町村の計451自治体に、活用が低調な理由を尋ねると、システムを使うための環境整備が出来ていない▽住民から添付書類を出してもらった方が効率的だ▽システムに市民の最新情報が反映されておらず使えない――などの回答があったという。
住民には、本来なくなるはずだった負担が生じ続けている。たとえば、年間で約230万件あった退職などに伴う国民健康保険に関する手続きでは、94%でシステムを使わず。紙の証明書の提出を求めていた。難病患者への給付金に関する申請で、取得が有料の紙の課税証明書を求めたケースも見られた。
検査院は報告書で、システム活用低迷の背景には、自治体側の態勢不備や、最新情報の反映が遅いシステム自体の問題もあると指摘。「自治体の取り組みだけでは解消が困難な問題等が見受けられる」「構築した国側にも問題がある」として、所管のデジタル庁や関係省庁に改善を求めた。
デジ庁は15日、検査院の指摘を受け「マイナンバー制度全般を推進する立場として重く受け止めている。今後も利用推進の取組を支援していきたい」とのコメントを出した。
デジ庁は、2149億円を投じた現行システムが更新期を迎えているとして、新たに数百億円を投じて機能を強化する方針を掲げている。(座小田英史、上地兼太郎)
マイナンバーによる行政の効率化 政府は2015年から、国内の全住民に対し、12桁のマイナンバーを付与。納税や年金記録、住民票といった情報をひもづけ、社会保障や税などの事務手続きに活用する制度を導入した。転居に伴う児童手当の申請などの際、有料の課税証明書が不要となり、行政側は他自治体への情報照会をオンラインでできるようになるとされた。システム整備のため政府は749億円を投じ、自治体に1400億円を補助。22年度の全国の自治体の利用は約3千万件だった。