パリで行われたイスラム系移民への差別に抗議するデモ=2024年4月21日、宋光祐撮影

 フランスで16日に始まる国勢調査で、親の出生地を問う質問が初めて導入される。移民系の社会状況を調べて差別の実態把握に役立てるのが狙い。ただ、人種や宗教で国民を区別しない社会統合の理念から人種に関するデータの収集を原則禁じてきた経緯もあり、民族的出自を問う質問項目の新設には反発も起きている。

 フランスの国勢調査は国立統計経済研究所(INSEE)が実施し、今回の調査では任意回答の質問項目として新たに両親の出生地を尋ねる。親の出生地から仏国籍で暮らす移民系を把握し、居住地や学歴、職業などと合わせて分析することで、移民系に対する差別の実態把握につなげる。

 INSEEは「不平等や差別を前例のない規模で研究できる」とした上で、「社会的な結束」を生む政策に貢献できる可能性があると強調する。仏紙ラクロワは今回の変更について「人種に関する統計への扉を開く革命だ」と評した。

 フランスは法律で、人種や信条、信仰に関するデータの収集を原則禁じてきた。背景には民族的出自や宗教などで区別せずに国民を統合する普遍主義の理念がある。ナチス・ドイツの占領下で対独協力政権がユダヤ人らを強制収容所に送った過去から、政府が市民の民族的出自を把握することへの抵抗感も根強い。

 これまでにも研究など限られた目的で親の出生地のほか、民族的な帰属意識や差別の経験などを尋ねる調査は認められてきたが、人種に関するデータの厳格な規制が移民系フランス人への差別の実態把握を妨げているとの議論が続いてきた。

 人権団体や主要な労働組合などは13日に連名で、国勢調査で親の出生地を問うことについて「いかなる政策であっても正当化できず危険だ」と反対を表明。調査の対象になった場合には回答を拒否するように呼びかけている。

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