フジテレビで多くの広告主がCMの放送を取りやめる異例の事態が続いています。スポンサー企業はこうした状況でなにを考えているのか。10時間に及んだ記者会見をどう評価しているのか。日用品大手エステーで長く宣伝部長を務め、テレビ局との折衝の最前線に立ってきたクリエーティブディレクターの鹿毛康司さんは、「まだCMを戻すことはできないだろう」といいます。
応援したくても
――かつてフジに広告を出していた立場から、この事態をどう見ていますか。
「まさに今もさまざまな企業から相談が来ていますが、非常に悩ましいですね。日常的にテレビCMを出している平均的な企業なら、だいたい月に1億円くらいの広告費をテレビに投じていると思います。これを日本テレビ、テレビ朝日、TBS、フジの4局に単純に振り分けると、フジだけで月2500万円になります」
「自社CMの放送をとりやめてACジャパンのCMに差し替えたとしても、通常なら企業側の都合で引き揚げるかたちになるため、広告主が支払う広告料は戻ってきません。今回のケースでは、フジが料金を請求しないと決めたようですが、これは異例のこと。一般論としては、この騒ぎが1カ月続くと、2500万円をドブに捨てることになるわけです。これは企業側にとってはとても大きな決断です。テレビCMに月2億円を投じている企業ならフジだけで5千万円。超大手のスポンサーならばさらに大きな額になるはずです」
「そういった事情もあるので、当初、週刊誌報道が出た時点でCMを引こうと考えていた企業はそれほどなかったと思います。中居正広さんが起こしたトラブルに関してフジにも疑義を突きつける報道でしたが、それが事実なのかどうか、広告主には確認するすべもありません。だからフジがきちんと説明してくれるだろうと期待していたのではないでしょうか。『こんなときこそ応援しないといけない』という気持ちの企業だってあったはずです。しかし、1月17日に開かれた最初の記者会見で潮目が変わってしまいました」
――なぜですか。
「なにが事実なのかわからないなか、フジのまったく説明する気がない姿勢だけが露呈してしまったからです。社会に向き合わない記者会見でした。しかも、映像取材を許さないなど、テレビがテレビ報道を自ら否定した衝撃もありました。『自らジャーナリズムを放棄したのだから、報道は捨てて、娯楽だけの番組をつくるテレビ局になるしかないね』という感情を私も持ったのは確かです」
「さらに、あの会見を受けて、スポンサー企業には消費者から相当のクレームが入っているはずです。なぜこのような対応をしているフジにお金を出してCMを流すのか、と。もちろん中には『企業にクレームを入れた』とSNSに書き込んで世間を騒がせたいような人たちからの苦情もあるかもしれません。なので冷静に考える必要はありますが、真剣に訴えてこられるお客様だっていますし、消費者にはスポンサーの姿勢を問う権利も当然あります。あの会見のあと、企業がクレームを軽視することはとても難しい状況になったと思います」
盟友たちが離れて
――テレビCMの世界では大口のスポンサーとして知られるトヨタ自動車や花王といった企業の動きが非常に早いように見えました。
「トヨタや花王の動向は他社にも大きな影響を与えたと思います。テレビの広告主はざっくりと2種類に分類できます。ひとつは、昔からテレビという社会的存在を作り上げてきたタイプの企業です。トヨタ、花王、サントリー、キッコーマンなどが該当します。こうした企業は、まだテレビが何者でもなかった時代から『こういう番組を作ろう』『世の中にこういう番組があったらいいな』と局と一緒になってテレビ文化を作ってきました。もちろん番組の編集権はテレビ局にありますが、こうした企業にはテレビCMを放送することで世の中に尽くしているという強力な自負がある。他よりも多くの広告費を投じているし、番組づくりをサポートすることが社会貢献でもあると考えてテレビ局と深く付き合ってきたわけです」
「こうした企業が今回、早い…