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筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の柳沢正史機構長。後ろは、夢の世界へ飛んでいく眠るブタのオブジェ=茨城県つくば市

 大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手や将棋の藤井聡太名人が1日10時間眠ると語り、睡眠が改めて注目されている。人はなぜ眠らなければならないのか。睡眠制御物質「オレキシン」を発見した、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構長の柳沢正史教授(64)を訪ねた。

 OECD(経済協力開発機構)の2021年の調査で、33カ国中、1日の睡眠時間の平均は全体で8時間28分だったが、日本は1時間以上短い7時間22分で最も少なかった。こうした状況に、厚生労働省は「健康づくりのための睡眠ガイド2023」で、科学的な知見に基づき「成人においては、おおよそ6~8時間が適切な睡眠時間と考えられる」とし、1日の睡眠時間を「少なくとも6時間以上確保できるよう努めること」を推奨する。今年度から始まった第3次「健康日本21」(12年間)では、睡眠時間が6~9時間(60歳以上は6~8時間)の人の割合を19年度の54・5%から32年度には60%に増やす目標値も設定した。

 柳沢さんによると、現象でみると睡眠には①長く起きていると眠くなり、眠ると眠気がとれる「睡眠恒常性」、②体内時計による制御、③「眠気が吹っ飛ぶ」情動による制御の三つがあり、②と③は世界の研究室でメカニズムが解明されつつある。②の約24時間周期の体内時計のメカニズムを解明した研究は、17年のノーベル生理学・医学賞を受賞している。一番解明されていないのが①の「睡眠恒常性」のメカニズムだという。

睡眠めぐる2大クエスチョン

 「睡眠には二つのビッグクエスチョン、なぜ眠らなければいけないのかという『睡眠機能』と、長く起きていると眠くなり、眠ると解消される『睡眠恒常性の制御』があります。もしかしたら、表裏一体で機能と制御のメカニズムは結びついている可能性が大きい」

 子どものころから「研究者に…

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