「シカがわなにかかったから来てほしい」
8月5日午前5時、沼田町農業推進課の橋本幸太郎さん(33)の携帯電話が鳴った。相手は町内の農家。橋本さんはとめ刺し用の電気やりなど道具をそろえて軽トラックに乗り込んだ。
沼田町は石狩平野の北端。農耕地が雨竜川に沿うように広がる人口2795人の町だ。北側は増毛山地。山と平地の境界にあるため、鳥獣の出没は多く、駆除しなければ農作物が被害にあう。この日は、わなにかかった2頭のエゾシカを仕留めた。
死骸は埋葬せずに必ず焼却
解体してジビエにしたい。だが、公的業務は駆除まで。精肉は業務外のため、死骸は泣く泣く焼却する。「説得して山に帰ってくれるなら、何時間でも説得しますよ」
埋葬は絶対にしない。ヒグマが死骸を食べに寄ってくるからだ。
橋本さんは埼玉県出身。動物が好きで、農業高校でアニマルセラピーを学んだ。東京農業大を卒業後、会社勤めをしていたが、動物にかかわる仕事を求めた。
その頃、北海道岩見沢市のわな猟師、原田勝男さん(84)と知り合う。ヒグマに襲われて片目を失った原田さんは、独自のくくりわな猟で地域の鳥獣による農業被害額を10年間で9割減らした「すご腕」の猟師だ。
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原田さんに初めてわな猟に連…